古今東西この世の中は「バトル」にあふれています。サッカーや野球などの競技から、テレビゲームやコンピューターゲームの腕を競うeスポーツ、もっと原始的なものでいえば、それこそ「じゃんけん」まで……。さまざまなジャンルのなかで繰り広げられるバトルですが、読書の世界にもバトルがあることをご存知ですか? その名も「ビブリオバトル」。本を用いる戦いってどんなものなんでしょう? ビブリオバトルのルールや魅力、そこから得られたものなどを、「大学ビブリオバトル・オンライン大会2020」で優勝を果たした甲南女子大学の学生・堀内さんに聞いてみました。
自分の話術で「読ませたい」と
思わせた者勝ち!
「ビブリオバトル」ってなんだ!?
今日はよろしくお願いします、チャンピオン!
堀内さん:わあ、ありがとうございます。そんな大層なものではありませんので、お恥ずかしいですけど……。
どのような大会で優勝されたんですか。
堀内さん:「大学ビブリオバトル・オンライン大会2020」という大学生向けの全国大会で、参加者は予選を合わせて500人くらいの規模ですね。
500人の中の1位! すごいことですよ。とはいえ、そんな競技があること自体、多くの人は知らないのかなと思いまして。そもそも「ビブリオバトル」とは何か、教えてください。
堀内さん:基本的なルールですが、バトルの参加者は好きな本を持ち寄って、自分以外の参加者や観客に向かって、その本についての5分間のプレゼンテーションをおこないます。発表が終わると、次に2〜3分間の質疑応答の時間があります。参加者全員分のプレゼンテーションと質疑応答を経て、みんなに「どの本が最も読みたくなったか」という基準で投票してもらいます。その票数が1番多かった人が勝ちになるというものです。
魅力的な書評を出した人が勝ちなんですね。
堀内さん:書評で戦うだけあって、ビブリオバトルは「知的書評合戦」とも言われています。そしてこれがバトルたり得る理由なんですが、ビブリオバトルでは、パワーポイントやレジュメを使ってはいけないんです。原則として読み上げレジュメの作成も禁止です。
へええ、面白い!
堀内さん:武器にできるのは自分の「しゃべり」だけ。シンプルですが、好みや感性の違う複数人の観客みんなに自分の好きな本を「読んでみたい」と思わせるにはどうプレゼンをすればいいのか。そこが難しくておもしろい部分だと思っています。
ものすごくシビアな戦いですね……!
シビアな中にも笑いあり!?
お笑いにも似た
「しゃべり」のパフォーマンス
堀内さん:シビアですけど、基本は「楽しくおしゃべりする」ことです。小学生向けの大会や規模の小さいビブリオバトルでは、本のテーマがあらかじめ決まっているとか、絵本限定だとか、その都度ルールを変える柔軟さもあります。またプレゼンですが、紹介した本を読んでもらうのが1番なので、ネタバレもみんなの心遣いによって絶妙に守られていますし、あえて「今からネタバレするので、耳を塞いでください」と言うような人もいます。
聴く人の興味をそそる絶妙な手法ですね。
堀内さん:印象に残っているバトルだと、2019年の全国高等学校ビブリオバトルの決勝大会でチャンピオンがした発表がお笑いみたいで引き込まれました。あと、専門家のビブリオバトルは本当に面白いですよ! 書店員同士で戦っているビブリオバトルの動画がYouTubeにあるんですけど、すごく見応えがあります。
確かに、口ひとつで勝負するというのはお笑いに通ずるものがありますね。
堀内さん:私も話術を上げるため、お笑い芸人さんの動画を参考にすることがあります。喋り方や、間の作り方はすごく勉強になります。実際、競技人口は関西圏の人が圧倒的に多いです。ビブリオバトルは、当時、京都大学の研究員だった谷口忠広さん※が考えたと言われていて、関西の方に、より普及しているというのもあると思いますね。
※取材時は立命館大学情報理工学部教授
ビブリオバトル、面白いですね! 実際にいろんな動画を見たくなってきました。
悔しいよりも、
相手の本の魅力に引き込まれる!?
本好きによる本好きのための
「お互いを高めあう」戦い
ただ、バトルというからには、質疑応答は「相手の弱点を突こう」とか、殺伐としたものなんでしょうか?
堀内さん:ディベートとは違うので、言葉の応酬で戦うということはしません。プレゼンテーションに与えられる5分は、時間厳守なんです。4分で終わっても待つことになるし、経過したら話は途中でも中断されます。
かなり練習しても5分ピッタリに合わせるのは難しそうですね。
堀内さん:でも、途中で切れても優しい質問者の人が「続きを教えてください」ってフォローしてくれることもあります。そもそも、相手の揚げ足をとる行為はルールとしてだめなんですよ。なので、殺伐とした雰囲気はないですね。単純に魅力的な本を持ってきて、より魅力的に紹介した人が勝ちになります。あと、「投票は自分以外の本に」という紳士協定もあります。
ほー。意地悪な質問で恐縮ですが、負けた時に「なんであの本が!」とは思わないんですか?
堀内さん:うーん、私の場合は、本の面白さを伝え切れなかったことを悔やむことが多いですね。「この本が負けるはずないのに」「この本は面白いはずなのに」という……。勝ちたい相手も出てきますけど、「あの人が紹介した本に負けた」という時、十中八九、相手の紹介した本を私も読みたくなっているんですよね。悔しいなと思いながらも、相手の紹介した本を読んでしまいます。それが面白かったらさらに悔しくなりますし、もっと面白い本を探さなきゃ! とやる気がわいてきます。
なんて紳士で、平和で、かっこいい戦い……!
地域での大会開催や、
他大学のサークルとの交流も盛ん
堀内さんはどこか特定のビブリオバトルのサークルに所属しているんでしょうか?
堀内さん:甲南女子大学にはビブリオバトルの部がないので、私は大阪大学の「阪大ビブリオバトル」という非公認のサークルで活動しています。そこだけではなくて、大阪工業大学のサークルに顔を出すこともありますし、大学の近所の地域で開催されている社会人サークル「岡本ビブリオバトル」にも出させてもらっています。他にも、兵庫県西脇市のほうで、Zoomと対面のハイブリッド形式のビブリオバトルに出させてもらったり、生駒市、和歌山市でもやったり、いろんな場所で参加していますね。
いろんな大学や地域のサークルと交流があるんですね。
堀内さん:そうですね。高校生の時に2回、大学生の時に1回、全国規模の大会には出ているんですけど、それ以外の大規模な大会にも3回ほど出場しています。小さい大会や、サークルへの参加はもう数え切れないくらい。長く続けていると、各所の大会で顔を合わすことで仲良くなる人もいますね。「あ、この人いつもいるなあ」って。
仲良くなる人も出てきそうですね。
堀内さん:ビブリオバトルに出ている人は基本的に趣味とか性格が合いますね! 本が好きで、人にそれを話そうとか、広めようという気持ちが強い人たちなので。仲良くなった人とはInstagramでも繋がって、よくオススメの本を教え合っています。遠いところだと奄美大島の高校生と友達になったりだとか。
遠くの人とも本を通じてフラットに話し合えるのは、ビブリオバトルをやっている人ならではの繋がりですね!
本が好き! 人前で喋るのも好き!
「口の立つ読書オタク」だから
のめりこんでいった
堀内さんがビブリオバトルの世界に入ったきっかけはなんでしょう?
堀内さん:ビブリオバトルは、中学校で図書委員をやっていた時に、図書館の司書の先生から誘ってもらったんです。当時は受験生だったので、高校からはじめました。小学生の時から本が好きで、さらに、いろんな人に自分の好きな本を押し付けるのが好きだったんですよ。それに喋るのも。目立ちたがりで、でしゃばりな性格の子って本好きのなかでは比較的珍しいかもしれませんね。
知識を吸収してそれを喋ることができる最強の人材「口の立つ読書オタク」だ……!
堀内さん:おしゃべり好きを活かして、高校の部活は放送部を選んだり、自分の作った俳句の良さをプレゼンして相手と戦う「俳句甲子園(全国高等学校俳句選手権大会)」にも参加したりしていました。人前で発表するのが好きなんでしょうね。好きなことについて5分も話せて、それを聞いてくれるというのは嬉しいことだなあと思います。
全国大会で優勝した本は、
このご時世だからこそ読んでほしい
SF作品
ちなみに、全国大会で優勝した際にプレゼンしていた本は何だったんでしょう?
堀内さん:『ハーモニー』という本です。変異型のウィルスが流行って、世界中が医療に全力投球した結果、なによりも「健康が大切」という思想が尊ばれ、国民はみんな健康を厳重に管理されるようになった世界でのお話です。健康を管理されることが当然の世の中で、パンデミック後に生まれた主人公が「健康を管理されない自由」を求めていきます。
SFだけど、こんないまの世の中だとフィクションのように思えないくらいです……! そんな作品があるんですね。
堀内さん:実は、私はもともとSF作品が苦手だったんですよ。でも、高校生の時に出た大会で、勝手にライバル視していた子が『百年法』というSF作品で優勝したんです。悔しくも読みたくなって、読んでみるとやっぱり面白くって。そこからいろんなSF作品を読み漁って、出会ったのが『ハーモニー』です。
たくさんのSF作品を読んできたなかで自信を持ってオススメする1冊ということですね。もう気になってきました……!
堀内さん:『ハーモニー』の詳細なプレゼンは「大学ビブリオバトル・オンライン大会2020」のYouTubeアーカイブで視聴することができます。ビブリオバトルというものがどんなものなのかも含めて分かるので、1度見てもらうのがいいかなと思いますね。
若い世代にこそ刺さる
新進気鋭の名作!
高校生や大学生に読んでほしい作品
高校生や大学生……同世代にオススメしたい本はありますか?
堀内さん:最近ハマっているのは『流浪の月』ですね。去年の本屋大賞を受賞した、凪良ゆうさんという方の本なんですが、いわゆる「デジタルタトゥー」が話の軸になってきます。
「デジタルタトゥー」……、インターネット上で拡散された情報や画像は何年経っても残って当事者たちを苦しめるというものですね。
堀内さん:デジタルタトゥーはSNSが広まっている現代のすぐ身近にある問題ですし、文章自体も会話文が多いのでマンガみたいな感覚でスラスラ読めるのが魅力ですね。もうひとつは、宇佐見りんさん著『推し、燃ゆ』です。
『推し、燃ゆ』……時代劇ですか?
堀内さん:いえいえ、現代が舞台です。推しのアイドルが炎上してしまった女子高校生が主人公のお話です。
(ちょっとページを開いて)おお……出だしの文章がもう強烈ですね。「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」……。
堀内さん:作者の宇佐見りんさんは、この作品で第164回芥川賞を受賞しました。文藝賞や三島由紀夫賞など名だたる賞を獲得しているんですが、なんとまだ年齢は21歳なんです。私たちと歳が変わらない。人物の描写や心情の変化など、同世代だからこそ共感できて、刺さる内容だと思います。
それにしても、こうやって本好きの人から面白い本を紹介してもらえると、ポジティブな気持ちで読んでみようと思えますね!
堀内さん:そうなんです。ビブリオバトルをやっていると、自分だけがオススメするのではなく、相手からも面白い本をオススメされるので、読みたい作品がすごく増えて大変なんですよ! 時間が足りません(笑)。
ビブリオバトルは人生の生きがい
魅力的な作品に
たくさんの人を引き込みたい
堀内さんはいま3年生。就職を考える頃だと思うんですけど、本関係の仕事を目指しているんですか?
堀内さん:一応、司書の資格の過程はとっているんですけど、司書はなかなか空きが出ず求人が少ない思うので、勤められたらいいなくらいに思ってますね。今は公務員試験の勉強をしています。図書館や公共施設で本に関わる仕事ができるかもしれないので。
ビブリオバトルは卒業後・就職後も続けていく予定ですか?
堀内さん:はい。趣味として社会人になっても続けたいです。娯楽、趣味……生きがいと言ってもいいかもしれませんね。周りからもういいと言われるまで、ずっと喋りたくなってしまうんです。「最近面白い本ない?」と誰かが言った時にはすぐに、待ってました! と飛んでいってオススメしたいですね。これまでもこれからも、私の人生に本は欠かせないと思います。
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※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。
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