「ギルトフリー」という言葉を知っていますか? “ギルト(罪)” “「フリー(囚われない)”という意味の通り、罪悪感やうしろめたさを感じることなく、満足できるまで食べられるように工夫した食品や料理のことをいいます。ダイエットなどで食事に対し神経質になりすぎると、ストレスがたまり身体に悪影響を及ぼすことも。けれどもし、ギルトフリーな食事を知ることで食べることを楽しめたら、体にも心にも良いことがたくさんあるはず。そこで甲南女子大学医療栄養学部の橋本先生監修のもと、医療栄養学部のふたりの学生にギルトフリーなメニューを考案していただき、実際に作ってもらいました!
ギルトフリーな食事は
SDGsにもつながっていく
そもそも、低糖質・低カロリーなギルトフリーの食事が注目されるようになったのはなぜでしょうか?
橋本先生:低エネルギーなスイーツやグルテンフリーのパスタなどに代表される、ギルトフリーと呼ばれる食品が特に近年注目されている理由として、コロナ禍の影響も考えられます。2021年秋の日本生活習慣病予防協会の調査(※)でも、以前に比べて4人に1人が体重の増加を実感しているというデータがあります。外出が制限されるなかで、食べ過ぎや運動不足、ストレスをためる場面が増えた結果だと思われます。そういう状況をなんとか変えなくてはという意識のあらわれが、ギルトフリーをピックアップする理由かもしれません。ポジティブに捉えると、自粛生活によって食への関心が高まったともいえますね。自炊をする機会が多くなり、ギルトフリーのような“健康的でおいしい豊かな食事”に目を向ける人が増えたとも考えられます。
(※)出典:全国40~60代男女3,000人および医師50人に聞く、 新型コロナウイルス感染拡大の陰で起きている体調変化や生活習慣に関する最新調査(2021年11月10日 )/一般社団法人日本生活習慣病予防協会https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106693/202111103137/_prw_OR1fl_5kq1G8TE.pdf
橋本先生:あとは、高カロリーで食欲をそそるようなメニューがいつでも身近にあることも理由のひとつかもしれないですね。現代はグルメ番組も豊富ですし、Instagramなどで食事をアップしている方も多く見かけます。高カロリーなメニューでもついつい誘惑に負けて食べたくなってしまうのではないでしょうか。その罪悪感からギルトフリーな食事が注目されているということも考えられるかもしれません。
ギルトフリーな食事をとることに社会的な意義があれば教えてください。
橋本先生:今多くの人のあいだでSDGsの考えが注目されていますね。ゼミの学生もSDGsをテーマに勉強しています。ギルトフリーな食事を考えた時に、たとえば大豆ミートを使うことで牛肉の消費が抑えられ、環境負荷や食糧不足の改善につながっていたり、レモンを皮まで使うことで廃棄物の減少に貢献していたりと、結果的にそれが社会的意義につながっていることはあると思います。
今回は学生さんが主体となって、自宅で作れるギルトフリーレシピを考えてくださったんですよね。
橋本先生:そうですね、すべて自分たちでメニューを決め、私は少しアドバイスをした程度です。普段から授業の中でも、栄養素の基準を満たしたレシピを考える課題があるので、自分たちの力だけでもレシピを考案できたのだと思います。
考案したギルトフリーレシピを
実際に作ってもらいました!
協力いただいたのは、医療栄養学部 医療栄養学科3年生、橋本先生のゼミに所属するふたりです。
【豆腐コブサラダ & シーザー風ソイドレッシング】
岩倉さん:サラダは低エネルギーなので、ギルトフリー向きのレシピといえます。その中でもコブサラダは、根菜も葉野菜も関係なく、多様な種類の野菜を入れやすいのが魅力です。今回は皮ごと食べられる野菜のさつまいもときゅうりとトマトを使用しました。大豆製品は栄養価が高くヘルシーですごく万能なんですが、実は私は豆腐が苦手で。なので、同じように苦手な人にもおいしく食べてもらえるように考えました。
【大豆ミートのきつね春巻き & チリソース】
五嶋さん:揚げものを家でつくるのは大変だし、脂質のとりすぎをどうにかしたいと考えた時に、春巻きの皮のかわりに油揚げを使うことを思いつきました。中の具は、お肉の代わりに大豆ミートを入れたことで脂質を下げることができ、食物繊維などの栄養素もたくさん摂れて、満足感を得られるようにしました。油揚げは通常の皮よりもたんぱく質を多く摂取でき、油抜きをすることで脂質がカットされます。
【自家製茶葉ふりかけ & 中華茶粥】
岩倉さん:緑茶にはビタミンCやカロテンが豊富に入っているのですが、お茶に溶け出てくるのは実はたった3割ほど。7割は茶葉に残っているので、 それを食べることで栄養素を摂取してしまおうというレシピです。お粥はご飯の量が少なくても満足感を感じやすいメニュー。中華粥にして生姜やごま油を入れることで、風味のある味に仕上げました。ふりかけは茶葉の苦味を生かしながら、干しえびやごまでうま味をプラスしています。そのままご飯にかけて食べてもおいしいです。
【Tofu生チョコ】
五嶋さん:砂糖なしで、絹ごし豆腐とチョコレートだけで簡単にできるスイーツです。生クリームの代わりに豆腐を使うことで、脂質を下げています。ガトーショコラのような濃厚な味で、満足感がめちゃくちゃ高いです。 ナッツとドライフルーツを入れることで甘みを足しているのと、食感のアクセントにしています。ナッツはビタミン、食物繊維も豊富なので、デザートに取り入れると栄養価が上がっておすすめですよ。
【レモン果汁のスムージー】
岩倉さん:スムージーは、果物や野菜の栄養素を一度にとりやすくエネルギーや脂質も抑えられ、満腹感も得られるのが魅力です。また、牛乳の代わりに豆乳をつかうことで、イソフラボンを豊富に摂取できるようにしました。レモンはやはりビタミンCが豊富なのが良いところです。
【アボカドが入ったレモンまるごとのスムージー】
岩倉さん:皮には食物繊維が豊富に入っているので、一緒に食べられたらと考案したレシピです。皮を入れることで、レモンらしい爽やかな香りを出せるという良さがあるのですが、少し苦味もあるのでどうしようかと試行錯誤しました。アボカドとバナナを加えたところ、バナナの自然な甘さとアボカドのクリーミーさのおかげで苦味が消え、とってもまろやかな味に仕上がりました。
ギルトフリーなレシピは
食べることで健康になるレシピでもある
テキパキと作っていただき、計7品もの豪華なメニューができました! どれもおいしそうで、これがすべてギルトフリーな食事なのだといわれると、イメージと違うかもしれませんね。
五嶋さん:実は私たちは、ギルトフリーという言葉自体は元々知らなかったんです。ただ、私たちの年代ってやっぱりダイエットを意識する人は多くて。この考え方を知ることで、きちんと栄養面のことを意識できれば良いなと思いました。
普段から栄養素を意識したメニューづくりを学ばれているんですよね。
岩倉さん:私たちが目指している管理栄養士は、栄養素の基準をすべて満たすように、自分たちで献立を考えなければいけません。年齢や疾患別によって摂取すべき栄養素量も変わり、腎臓病食だったらたんぱく質を制限しないといけないなど、細かい値が設定されているんです。栄養学を勉強していると栄養素を計算する機会が本当に多いので、味噌汁1杯の塩分は大体1〜1.5gなど、自然と覚えてしまいました。
栄養学を学んでいるおふたりが、普段の生活で気をつけていることってありますか? 私たちが日々の食事で気をつけるべきことなどもあれば教えてほしいです。
岩倉さん:朝にパンだけとか、糖質のみをとってしまうと、血糖値が上がりやすく結局あとで満たされなくて、なにか食べたくなったりするので、朝はたんぱく質をとることを心がけています。それと、いろんな栄養素の基準値を考える上で、食物繊維はいつも足りなくなりがちで。そこで助けになるのは大豆製品。豆腐だけではなく豆乳や大豆ミートなどいろいろな形があるので、うまく取り入れると良いと思います。
五嶋さん:ギルトフリーとは少し違うのですが、塩分量は過剰摂取になりやすいので注意しています。ただ単に塩分量を減らすだけだとおいしさも損なわれてしまうので、代わりに酢や香辛料、香味野菜などを足してあげることで、味をしっかりだして食べ応えのあるものにすると良いです。それと、汁物って実は塩分量がすごく多いので、飲みすぎないように気をつけています。
ダイエットをしている高校生の方も多いと思いますが、そういう方に向けてなにかアドバイスはありますか?
岩倉さん:我慢しすぎると心によくないので、食べたいものは食べた方が良いよって言いたいです。食べものの栄養について知識を増やして、質の部分を良くしてほしい。今ってコンビニでも健康食野菜が1/3とれるスープとか、たんぱく質の量が2倍のパスタとか丁寧に書いてたりするので、それを目安にしても良いと思いますし、たとえばまずは1食だけ気をつけてみよう、とかでも良いと思います。
橋本先生、今回のレシピはいかがでしたか?
橋本先生:レモンの皮や茶葉など、栄養価は高いけれど捨てざるを得なかった食品を、余すところなく上手に使っていますね。またきつね春巻きやコブサラダなど、野菜の食感を大事にしているので、歯ごたえもあり、満足感が出るようにうまく工夫しています。また、レシピ作りにおいては手軽さも重要です。ドレッシングやタレを、家庭にいつでもあるような調味料を混ぜるだけで自分で作れるように考えたのには、とても感心しました。
橋本先生:今回のレシピに何度も登場した豆製品は、ギルトフリーの考え方にとても合う食品です。豆腐の味や食感は主張が少なく馴染みやすいので、和食にも洋食にもお菓子にも使えます。また豆乳は牛乳の代わりにするだけで、エネルギー量はあまり変わらずに脂質が抑えられ、たんぱく質やイソフラボンを多く摂取できます。そして大豆ミートは、動物性の脂質が抑えられ、植物性たんぱく質や食物繊維も豊富にとれるんです。糖質や脂質を減らすだけでなく、いかにプラスアルファで栄養素がとれるか、というのもギルトフリーの大切な視点ですね。
ギルトフリーの食事について、健康面でのメリットはどのように思われますか?
橋本先生:ギルトフリーの食事というと、なんだか難しそうに聞こえてしまうかもしれませんが、もっと単純に「健康的で栄養バランスの良い食事」に近いと思ってもらっても良いかと思います。無理をして食事を抜くと、表面上は分からなくても、筋力の低下や骨粗相症など、のちのち体に悪影響が出てしまいます。ギルトフリーレシピは「食べることを我慢しなくて良いレシピ」ですし、もっというならば「食べることで健康になるレシピ」ともいえるんじゃないでしょうか。ギルトフリーの考えによって、普段不足しているところが補えるような食事のとり方を、1日1食からでもやってみてもらえたらなと思います。
健康な食生活のために、具体的にはなにからはじめれば良いでしょうか?
橋本先生:理想としては、今自分が1日に食べている食事の材料である食品の種類や量、栄養素を知ることですね。自分が必要とする適正な食品の種類や量、栄養素を調べてみて、普段の食生活で何が欠けているのかを知ることが大切です。それと「彩りがよく、写真映えするような料理を食べる」という意識を持つとわかりやすいですね。彩りを意識すると、自然と緑黄色野菜をとることにつながります。色んな食材を食べることで、満足感を得られるように工夫してみてください。
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橋本理恵講師の教員詳細ページはこちら(大学公式サイトへ)
※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。
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08ギルトフリー vs 罪深グルメ