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認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

03シスターフッドって、なんだ?

認め合うことで
結束力が生まれる。
「プリキュア」に学ぶ
女子の友情

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女児のみならず「見ていて元気が出る!」と大人からも支持の高いプリキュアシリーズ。女の子同士が手を取り合って強大な敵を力一杯なぎ倒し、熱い友情を築き上げる……プリキュアもまさしく「シスターフッド的」な作品と言えるかもしれません。女性たちが友情を育みながら戦う物語は、「セーラームーン」シリーズなどにも見受けられますが、プリキュアシリーズはさらに時代に即した価値観のようなものが付与されているようにも感じます。
社会学の目線からから見たプリキュアシリーズは、どんなシスターフッドの要素があるのでしょうか? 甲南女子大学人間科学部文化社会学科の木村至聖先生に聞いてみました。

シスターフッド(Sisterhood)という言葉が近年、注目を集めています。

直訳すれば「姉妹関係」という意味ですが、「強く結ばれた女性同士の連携」を指す言葉として、「#MeToo運動」の盛り上がりなど、フェミニズムの認知拡大が世界的に高まるとともに、シスターフッドというキーワードも認知されてきています。また、シスターフッドをテーマにした文学・映画・ファッションプロダクトなどが次々と生まれています。

シリーズを通して語られる
「自分を大事にしよう」
というメッセージ

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情
木村至聖准教授(人間科学部 文化社会学科)
文化遺産の社会学、軍艦島などの旧産炭地域に関する研究を中心におこないながらも、巨大ロボットやプリキュアなどのアニメ作品を社会学からの目線で紐解く活動もおこなっている。

いまやシリーズ18作目を数える「プリキュア」シリーズですが、女性が主人公の過去のアニメと比べてどんな違いがあると思いますか?

木村先生:シリーズを通して語られているのは「自分らしさを大事にしましょう」というテーマではないでしょうか。自分が好きなものを好きって言って、何が悪いんだ! という自信に満ちた主張です。引っ込み思案な性格をしていたり、元気はつらつでいかにも主人公キャラですが、趣味嗜好が変わっているとか。プリキュアシリーズの主人公たちはキャラの個性が立っている場合が多いです。当人たちの個性を「恥ずかしいもの」と隠すものでもなく、個性があって当たり前という価値観がベースにあるなと、さまざまなプリキュア作品を見ていて思いますね。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

自分を大切にすることが、女性同士の友情を描く物語にどう影響を与えているんでしょう?

木村先生:個人としての戦いを強いられるのは男性向け作品の中でも無数に出てきますし、現実世界でもそういったことはありますが、じつは男女間の格差などのいびつな関係によって生まれた問題が、女性同士の対立や競争にすり替えられている場合ってけっこうあると思うんです。

思い当たることがいっぱいあります……!

木村先生:男女関係なく、社会のなかで自分らしく生きていくためには、個人的な差異や対立を乗り越えていく必要がある。だからプリキュアシリーズの敵は、世界征服を目的とするような悪の組織というよりも、夢を奪うとか、やる気を奪うとか、そういう「自分らしく生きること」を邪魔する存在として描かれることが多いです。

社会を生きるうえで障壁となりうる問題が、敵キャラに落とし込まれているんですね。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

木村先生:そこで影響を受けるのは自分たちの生活圏内、日常の世界なんです。プリキュアたちは自分たちが暮らす比較的小さな世界を守り、自分らしく生きるために、直接身体でぶつかりあって戦っている。これが旧来の女性向けのアニメキャラとの大きな違いのひとつといえるかもしれません。

戦う女の子の代表作
「セーラームーン」との違い

とはいえ、女性の自己実現や友情を武器にして戦うというのは、セーラームーンの頃からもあったかと思います。プリキュアとセーラームーンの違いってなんでしょうか。

木村先生:その前にざっとアニメにおける女性の役割をおさらいしておくと、変身して戦う女性を描いた作品はセーラームーン以前からもあったんです。ただ、女性の側の主体的な動機が作品の中心に据えられることってあまりなかった。戦いはあくまで男性中心であって、女性は戦ってもサポート役だったり悪の要員だったりして。

『ルパン三世』の峰不二子なんかは典型的にそれですね。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

木村先生:女性は主体的に戦っているわけではないという男性側からの一方的な役割規定を脱して生まれたのが女性の戦隊モノ=セーラームーンです。プリキュアは明らかにセーラームーンの……もとい戦隊モノのフォーマットを踏襲しているんですが、ひとつ大きく違うのは、プリキュアは毎年キャラクターと世界観が変わることじゃないでしょうか。

はー! なるほど!

木村先生:そのおかげで、時代の変化に合わせてキャラクターの設定を自在に変えることができ、実験的な設定や冒険したストーリーもつくりやすくなっています。プリキュアが「シスターフッド」の作品だと言われるとすれば、世の中のニーズに細かく答えることで、より女性を中心とした視聴者の心に刺さるようになったからかもしれません。

プリキュアなだけであって
友達じゃない!?
作中の友情の描かれ方

プリキュアの作中で、彼女たちの友情はどんなふうに描かれているんでしょう?

木村先生:プリキュアの世界観ではいわゆる「スクールカースト」のようなものが出てこないのが魅力のひとつでして、「もともと仲良しのグループ」がプリキュアになるということはめったにないんです。

関係ありきでプリキュアができるんじゃなくて、プリキュアという役割のなかで友情が芽生えていくんだ。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

木村先生:そう、だからプリキュアにならなければ人生で関わらなかったであろうタイプの人間とも仲間意識を築くことになります。うまいな〜! と感心したのは第1作目の『ふたりはプリキュア』。主人公のなぎさとほのかはお互いにタイプも違います。OP映像ではまだ知り合っていないふたりが互いに目線を合わせることもなくすれ違う様子が描かれています。

つまり、それだけ他人だと。

木村先生:ひょんなことからプリキュアとなる使命を受けたふたりですが、8話まではお互いを名字にさん付けで呼んでいるんですよ。

へー!!

木村先生:ファンの間では「神回」と言われている8話。ふたりがケンカをする回です。「あんたなんかプリキュアってだけで友達じゃないんだから!」って言い争うんですね。さらにうまいな〜! と思うのは、第1作目はプリキュアに変身するにあたってお互いが手を繋ぐ必要があるんです。関係はギスギスしますが敵はやってきて戦わなければいけません。そうした「ケンカ回」を経て、全くの他人だったふたりが仲間としての意識を持ち、友情を育んでいくんです。

すごく面白い! 主人公たちの年代はともかくとして、大人になると趣味嗜好や性格が違っても手を取り合わなければいけない場面ってあります。価値観が違う者同士でどうやって関係を築くのか……これから社会に出ていく大学生や、働く親世代にはすごく刺さる内容だと思います。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

木村先生:戦いを通じてプリキュアの適性が判断され、主人公の友達だからといってプリキュアになるとは限らないのが新しい点ですよね。また変身を通じてキャラクターの抑圧されていた自我が解放され、その上で友情が生まれるというところも支持される要因かもしれません。

そういうキャラクターは結構多いですか?

木村先生:そうですね……。『ハートキャッチプリキュア!』では、家の方針で男装しているけれど可愛いものが大好きな女の子が愛らしいプリキュアに変身しますし、『フレッシュプリキュア!』のキュアパッションのようにもともと敵だったキャラが改心してプリキュアに変身することもあります。

たくさんのキャラクターのなかには「この子わたしと同じだ……!」とシンパシーを感じる人もいそうですね。

多様性を認め合う友情は
異星人までも!

プリキュアは3作目を最後にバディからチームへとメンバー構成が変遷していくのですが、友情の描き方も変わってきましたか?

木村先生:そうですね。バディからチームへの変化ですが、これはチームの方がストーリーに幅を持たせられるという制作の都合が大きかったんでしょう。チーム戦が主流となりましたが、いきなり4人なり5人のチームが生まれるのではなくて、最初は2人のバディでスタートしてメンバーが増えたり、色々なパターンがあります。共通するのは、学年の違いはあっても、あくまでメンバーどうしが平等な関係、ということです。リーダーなんていない! と本人たちが否定するシリーズもありますよ。

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

戦隊モノ的な図式でありながらもリーダーを置かず、相互で補い合う関係はイマドキっぽい価値観ですね。

木村先生:多様性を認め合うことの意義が広まっているのだと思うのですが、14作目の『スター☆トゥインクルプリキュア』なんて、人間だけではないんです。5人のうちふたりはなんと宇宙人です。

う、宇宙人!?

木村先生:宇宙をテーマにしたプリキュアで、星や人種が違う人々、いろんな文化の違いが作中に登場します。黄色のキュアソレイユである天宮エレナは父親がメキシコ人で、ルーツとなる国が違うがゆえのカルチャーギャップに突き当たることもある。そういった障害とどう折り合いをつけていくのかというところも見ていておもしろいですよ。

似た者同士ではない者たちが
手を取り合うことで、
自分の視野を広げることになる

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

プリキュアってものすごく奥が深いんですね……!

木村先生:似た者同士ではない者たちが手を取り合うことで生まれる友情があるということは、現実世界でも同じだと思うんです。好きなものがはっきりしてくると、どうしても似た者同士でグループをつくりがちですが、ともするとそれは自分の視野を狭めることになってしまうこともあるかもしれない。

仮に仲良くならなかったとしても、認識し合うというだけで多様性が身近にあるということを認識できる。それだけでも十分かもしれませんね。

木村先生:戦いが終わればプリキュアたちは普通の女の子に戻るのですが、主人公の出産に立ち会うなど、近年は比較的大人になった元プリキュアたちが変わらない友情を見せてくれることも多いです。

1年間という限られた期間のなかで、多様な価値観をもった女性たちが育む友情は、女子大学のなかでともに学ぶ学生のみなさんにも通じるところがあるかもしれません。正直、最近はフリフリの女児向けのキャラデザインに敬遠していたんですが(聞き手は初代あたりがギリギリの世代)、今回のお話を機に、女友達と一緒にシリーズ全部を見てみたくなりました!

認め合うことで結束力が生まれる。「プリキュア」に学ぶ女子の友情

人間科学部 文化社会学科についてはこちら(大学公式サイトへ)

木村至聖准教授の教員詳細ページはこちら(大学公式サイトへ)

※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。

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