痛すぎて薬がないと学校にいけない、やたらとイライラしたり眠くなったりする、ぜんぜん決まったタイミングで来ない……。多くの女性たちが少なからず抱えた経験のある「生理に関する悩み」。どうしてこんなにしんどいの? そんな疑問を甲南女子大学のふたりの先生に投げかけたら、現代社会を生きる女性たちが知っておきたい知識をたくさんもらえました。人生についてまわることだからこそ、生理の話をしましょう。
(※正しいのは「月経」ですが、この記事では、より馴染みのある「生理」という言葉も使っています。)
1人目:川村千恵子先生
100年前の女性より
5〜10倍生理が多い!?
現代女性に「生理しんどい」が多いワケ
ひと昔前よりも、生理中や生理の前後で心身に不調をきたす人が増えている気がします。昔の人は生理がつらくても言える環境じゃなくて知られていない、というのはあるかもしれないですが……、実際どうですか?
川村先生:昔に比べると多いですよ! まず、生理(月経)の時に身体に不調をきたす症状を総称して「月経困難症」といいます。お腹や腰が痛くなる、熱っぽくなる。食欲を抑えられないとか、逆に食欲がわかないとか。無性にイライラしたりうつ状態になったりと、症状はさまざまです。私も長年、甲南女子大学に勤めていますが、月経困難症の症状で悩んでいる学生は本当に増えました。
そもそも、どうして現代の女性はそんなに生理がつらいんでしょう?
川村先生:「現代社会のペースと女性の生き物としてのペースが合っていない」。これに尽きると思います。100年くらい前までは、女性はたくさん子どもを生んでいました。8人、10人きょうだいの家庭も当たり前だったんです。
今と比べると考えられないですね……。
川村先生:出産はもちろん命がけの行為ですが、妊娠しているあいだと産後の数か月は生理がありませんでした。多産が当たり前の昔、女性は生涯月経数が50〜100回程度しかなかったといわれています。子どもを産まなくなった現代、女性の生涯月経数は450〜500回にまで跳ね上がっているんです。
10倍じゃないですか!
川村先生:現代女性は発育がいいので初潮も早い。それなのに、子どもを産む年齢はどんどん上がっています。1人も産まないという人も少なくない。これは、いつでも誰でも、安心して子どもを産み育てられる保障が行き届いていない社会が原因であって、「女性が悪い」というわけでは決してありません。それに女性が必ず子どもを産まなければならないわけでもありません。しかし事実として、女性の卵巣・子宮は働きっぱなし。常に女性ホルモンの変化に晒されています。長く女性ホルモンの影響を受けるということでは子宮内膜症、乳がんも増えています。
自分の身体に関心を持とう
現代女性はどうすればいいんでしょうか?
川村先生:まずは自分の身体に関心を持つことです。看護学科の1年生前期前半授業に「キャリアデザインⅠ」という科目があるのですが、その授業で月経の話をします。それくらい女性が人生を通して健康でい続けるためには、月経の仕組みや自分の月経について知っておく必要があるんです。しかしながら、つい毎日忙しくて、若い人ほど自分の身体と向き合うのがどうしてもおろそかになりがちです。生理がどれくらいのペースできているのか、生理の時に自分にはどんな不調があるのか、きちんと把握できていない人も多い。
確かに……。
川村先生:高校生は初経からの期間が短い人もいて生理が不規則な人もいますが、3ヶ月以上生理がこない「無月経」の人もいます。「若いし大丈夫やろ」と放っておくと、もっと大きな身体の不調に気づかない危険性も出てきます。
それは怖いですね。具体的に何をすればいいんでしょう?
川村先生:ベストは「基礎体温」をつけること。基礎体温を毎日測ってグラフ化することで、生理周期や排卵のタイミングを知ることができます。いまは基礎体温を記録するためのスマホアプリも普及しています。「生理前はイライラするなあ」とか「おっぱいが張って痛いなあ」と、認識はしつつスルーしてしまいがちな不調も、基礎体温の記録によって可視化することができます。
毎日同じ時間に起きて測る……なかなか学生には難しいような……。
川村先生:それだけ不規則な生活をしている若い人が多いということなんです。朝にはたっぷり朝日を浴びて、夜は早めに寝る。それすら現代人には難しいんです。電気をつけていればいつまでも明るいですから。
毎晩遅くまでスマホを見てしまいますしね。自分の身体のため! と意識することが必要ですね。
川村先生:そうなんです。できれば基礎体温はみんなに測ってほしいですね。生理痛がない人も生理周期に乱れがある場合もあるし、生理が軽いと思ったら排卵をしていなかったという場合もあります。それも基礎体温をつければわかります。あと、過度なダイエットや不摂生も身体に悪影響が出ます。いまの若い世代は理想とする体型が細過ぎるんです。
行くハードルは高いが
自分の身体のために
婦人科受診を
川村先生:あとはユースクリニックとして、かかりつけの婦人科を持っておいてほしいですね。身体が成熟すると病気をしにくくなるので、病院自体に行くハードルが上がります。まして婦人科といえば、どうしても「内診台」のイメージがつきまとうので、婦人科に行きにくいというのもわかります。実際、婦人科にかかっても内診が必ず発生するわけではないんですけどね……。
ただでさえ行きにくいうえに、自分の不安をかき消してくれるような、寄り添った対応をしてもらえなければ、傷つくだけで終わってしまいそうです。
川村先生:そういう医師や看護師がいるというのは、残念ながら事実ですね……。これは看護学を教える身としても、変えていかなければいけない課題です。甲南女子大学の看護学科が大切にしているのは「寄り添う看護」なんです。たとえば、単に「生理痛が重い」という不調ひとつとっても、生理の血液を押し出すホルモンの分泌が多い人もいれば、社会人になって生活バランスが乱れたことによってホルモンも乱れて痛みが強くなっている場合もあるなど、患者一人ひとりの原因や要因はさまざまですよね。患者それぞれがもつ背景に耳を傾けて、病状だけではなく不安もケアできるようなスキルを磨くことを、学生には教えています。
不安もケアされたというポジティブな体験が、婦人科に行くことのハードルも下げてくれますよね。
川村先生:そうですね。不安をケアできる医療人を増やしていくこと、また、婦人科でネガティブな思いをしないよう、生徒のために養護教諭が地域に根差して信頼できる婦人科の先生と繋がっておく必要がありますね。私のほうでも、関係の深い信頼できる先生を紹介しています。
「寄り添う看護」というモットーにおいて、甲南女子大学の看護学科で女性の健康について特定の学びを展開することはあるのでしょうか。
川村先生:看護学科では今後、「ウィメンズヘルス」の名称がついた授業が増えるようにカリキュラムが変更されます。学部生から修士課程、博士課程すべてがウィメンズヘルスについて学ぶようになるんです。助産師になりたい人も、妊娠出産をする人が減っている昨今では、月経のことをはじめ、女性の身体に生涯を通してどんな変化があるか、社会で女性が健やかに生きていくためにはどんなケアが必要かを幅広く学ぶ必要があります。その知識が、患者さんのことを深く理解するために活きてきます。
川村先生:また、甲南女子大には「保健センター」があるので、在学生はひとまずそこに相談してもらうというのもいいですね。重要なのは、生理の悩みや疑問を1人で抱え込まないことです。生理だけではなく、女性の身体は変化が多いので諸症状に戸惑う人は多いです。病気を見落とさないためにも、不安に思ったら足を運んでみてください。
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2人目:山本綾子先生
子宮周りの筋肉の低下が
血の巡りを悪くする
現代の女性が生理について不調をきたしているのが多いという問題ですが、ホルモンバランス以外に、身体的な原因はありますか?
山本先生:いまの成人女性は筋肉量が少ないといわれていますね。高校の時は体育の授業や部活で身体を動かしていた人も、大学以降は途端に運動量が減りますよね。筋肉量の低下は身体の冷えに繋がります。それにともなって現代人は平均体温も下がってきています。
筋肉がないことで身体も冷えてしまうんですね。確かに、大学生といえば通学も電車やバス、授業は座学中心が多くて、あまり身体を動かす機会がないように思います。
山本先生:部活動がなくなると腰回りの筋肉を使う機会が減っていると思います。腰回りには、腰と太ももを繋いでいる腸腰筋、子宮を支えている骨盤底筋などがあります。これらを含む腰回りの筋肉の働きが悪いと、子宮をはじめとする骨盤の中にある臓器の循環が悪くなる可能性があると思います。生理は、子宮の筋肉がギュッと縮まって、不要になった子宮内膜を身体の外に出す作業ですから、循環が悪いと生理痛もひどくなると思います。
たしかに、子宮周りの筋肉が弱まって冷えていると生理痛も余計に強くなりそうです。
山本先生:また、痩せているのに下腹が気になるという若い人も多いですよね。あれは腰回りの筋肉が落ちて、下腹がぽっこりしてしまっているんです。
どうすれば子宮まわりの循環を高められるんでしょう? 「ホールのバイトで動き回っています」っていうのはだめですか。
山本先生:うーん、単に動き回っているだけでは、残念ながら運動とはいいません(笑)。やはり意識的に使いたい(強化したい)筋肉を動かすことですね。
駅ではエスカレーターをなるべく使わないとか。甲南女子大学は坂の上にあるので、余裕がある時はスクールバスに乗らずに歩くとすごくいい運動になりそうです。
山本先生:どうしても運動をする暇がない時は、椅子に座りながらでもできる筋トレが効果的ですね。動かない現代女性の骨盤は昔に比べて小さくなっていると助産師さんからよく聞きます。私は妊娠した時に、骨盤が小さいので帝王切開になるかもしれないと言われました。子宮にやさしい生活を送ることができない現代社会は、本当に女性にとって過酷だと思います。
いまの自分の身体は
5年後の自分に繋がっている
山本先生:私、46歳の時に子どもを産んだんです。高齢出産の定義は35歳からなので、46歳なんてもう「超高齢出産」です。
すごい! 先生はずっとお子さんを望んでいたんですか?
山本先生:子どもは望んでいましたが、、若い頃からずっと……というわけではありません。現代人は出産数が少ないですが「働き盛りを過ごすうち、出産しやすい時期のピークが過ぎてしまう」というパターンも大いにあると思うんです。子どもがほしくても、就職して間もないうちは自分のことで精一杯だし金銭的にも難しい。20代後半から30代半ばは仕事が忙しくて子づくりのタイミングがない。そうこうしているうちに35歳を過ぎて、自然妊娠の確率がガクッと下がってしまう……。
そういう人、すごく多いと思います。
山本先生:私もまさにそうでした。30代の頃は出張も多く、なんだかんだ忙しいし毎日楽しいので……と。でもやっぱり年齢を重ねていくごとに、以前よりずっと子どもを強く望むようになった。そして、子どもを授かった。もしかすると、私は何年にもわたって「妊娠ができる身体をつくる」ことを意識して生活をしていたのがよかったのかもしれません。
どんな身体づくりをしてきたんですか?
山本先生:先ほど紹介した筋トレで姿勢を保つ筋力をつけたり、子宮を支える骨盤底筋を意識的に鍛えることや、骨盤に負担がかからないような姿勢を意識し続けること。身体を冷やさない、怒りのストレスをためないなどですね。また、食べ物にも気をつけました。東洋医学の分野では「いま食べているものが5年後の身体をつくる」といわれていることを書籍で知ったことがきっかけです。
深夜のラーメンや味の濃いコンビニ飯、冷たくて砂糖たっぷりのアイスクリームが、5年後の身体に影響することを思うと……。
山本先生:人間なかなかそんなに先のことまで考えられないものですけど、現在の身体と未来の身体は地続きです。健やかな身体をつくる行動は早ければ早い方がいいですね。これは子どもを望む人も、そうではない人も同じです。生理をはじめとする身体の変化は女性みんなにやってきますから。
全ての女性が
生きやすい社会をつくるための
「ウィメンズヘルス」という学び
先生は日本で「ウィメンズヘルス理学療法研究会」を発足されましたよね。看護リハビリテーション学部の授業のカリキュラムでもウィメンズヘルスを学ぶ授業ができるように、いまその分野が注目されている気がします。
山本先生:そうですね。今回のテーマとなる生理だけではなく、妊娠・出産・加齢による身体の変化や、働く女性の健康管理なども幅広く学ぶための医療分野が「ウィメンズヘルス」です。たとえば女性アスリートは体脂肪が落ちることにより無月経を生じやすいです。アスリートにとって生理はトレーニングや大会出場に煩わしく感じがちですが、将来妊娠するためには、生理が止まってしまうのはよくないんです。ですから、いちばん身体が動きやすいところに大会を持ってこれるよう、産婦人科で月経周期をコントロールするようになってきています。これも「ウィメンズヘルス」。女性にとって現代社会が過酷だからこそ、看護学・理学療法学ともに、これからの学生は、ウィメンズヘルスに関する正しい知識を持って社会に参画していくことで、女性の心身の健康を社会全体で緩和していくことにつながっていきます。
自分の生活を我慢したりキャリアを犠牲にせず、女性であることを悔やんだりすることがない世の中に早くシフトしていかなけばいけませんね。
山本先生:医療に携わる人だけでなく、多くの人がウィメンズヘルスに関する正しい知識を持つ世の中が理想的ですね。高校生・大学生の世代にとって、生理はウィメンズヘルスを学ぶためのきっかけになり得ます。まずは自分の身体に意識を向けてみることからはじめてください。
看護リハビリテーション学部 理学療法学科についてはこちら(大学公式サイトへ)
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※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。
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