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自分の意識とどう付き合う? コンプレックスの心理学

09コンプレックス上等!

自分の意識とどう付き合う?
コンプレックスの心理学

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容姿、性格、能力、家庭環境など、多くの人が抱えているコンプレックス。そもそもなぜ感じてしまうの? どのように向き合っていけばいいの? そんな疑問を甲南女子大学で心理学の研究をしている畠山美穂先生に答えていただきました。詳しく聞いてみると、自分自身の生きやすさにつながるヒントがたくさんありました。

(※「コンプレックス」は本来、心理学・精神医学用語でさまざまな感情の複合体のことを指します。しかしここでは日本に一般的に浸透している「劣等感」という意味で使います。)

自分の意識とどう付き合う? コンプレックスの心理学
畠山美穂教授(人間科学部 心理学科)
専門は幼児心理学・発達心理学。「幼児の攻撃性」が研究テーマ。公認心理師・臨床心理士を目指す学生に、幼児の発達、子育てに悩む保護者への支援のあり方などの講義を行っている。

人と比べて、
ネガティブになってしまうのはなぜ?

「コンプレックス」という言葉は、自分が気にしていることなどを指してよく使いますが、そもそもどういうものですか?

畠山先生:劣等感をコンプレックスと表現したのは、精神医学者のアドラーです。その劣等感とは、大きく分けて三つあります。一つは「器官劣等性」とよばれるもので、先天的に体の機能や構造に損傷等があるという否定的な認識により、他の人よりも劣っていると感じる劣等感です。二つめが、自分の一部が主観的に見て他人より劣っているという感覚。これが、私たちがよく使っている「劣等感」です。そして三つめは「劣等コンプレックス」。「自分は人よりも劣っているから○○ができない」というふうに、劣っていることを言い訳的に使うものです。

どうしてそのような感覚が生まれるのでしょうか?

畠山先生:幼少期の子どもに「かけっこ速い?」と聞くと、ほぼ「速い!」と答えます。あまり人と比べていないので、走るのが好きだったら得意と答えられる。しかし児童期になると、かけっこで自分の記録が友だちと比べて良い結果でなければ「自分は遅いんだ」という感覚を持ちはじめます。それは何も悪いことではなく、人と関わり生きている以上、人間誰しもが持つ感覚です。

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畠山先生:そこで自分はこういうところがあると理解して、「じゃあこうしよう」と考え方を変えたり、別のことにエネルギーを注いだり。上手く向き合っていけば、なんら問題はありません。「人と比べて○○だから自分が悪い」と考えてしまい、言い訳にして「○○だからできない」となってしまうと、「劣等コンプレックス」に苦しめられるようになります。

特に10代や20代が抱えやすい印象ですが……。

畠山先生:自己が確立されるのが思春期です。その頃に他者と比較して自分がどういう人間か、何が向いていて、何が向いていないのかという自己の確立を無意識的に始めていきます。自分のなかで、自分はこういう人間だという枠組みや自己概念がつくられるんです。最近は遅くなっているので、大学生くらいまでかかる人もいますね。またこの年代は、刺激に弱くて、非常に内面に目が向きやすい。外に意識が向いていればそれほど気にならないことでも、自己に目が向くことによって自分はダメなんだとネガティブ思考に陥る方もいます。

コンプレックスを持つのは、
人間として当たり前のこと

10~20代は、他者と比較して自分を位置づける年齢なんですね。それによって生じるコンプレックスはどうやったら解消できるんですか?

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畠山先生:コンプレックスをなくすことはできないですし、その必要もありません。人と比較して自分は劣っていると感じることは誰にでもあります。その感覚をなくすのではなく、自分でどう変えていくのかが重要です。例えば、緊張するとおなかが痛くなって発表できない人がいますよね。しかし「おなかが痛い=発表できない」わけではないので、本来は因果関係として成立していないと考えるのが妥当です。これを「見かけの因果律」といいます。この状態になる人が「劣等コンプレックス」を抱きやすい人ということになります。

なるほど。でもそういったことは時々ある気がします……。「見かけの因果律」の思考になってしまうのはなぜですか?

畠山先生:先ほどの例でいうと、「発表して傷つきたくない」という目標があるためです。発表できない理由が、「おなかが痛くなるから」だと自己を正当化できる。しかしおなかの痛みを治したとしても、傷つきたくない認知を修正しないかぎり、別の症状が現れます。だから目標自体の修正が必要です。弱い自分や傷つく自分を労わってあげる。そういった自己受容ができるようになると、過剰な自己防衛が若干緩和されます。そのほかに幼いときから親が、子どもが何か失敗したときにしっかり受け止めてあげることも大切です。

子どものときからの経験も、関係するんですか?

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畠山先生:子どもは、親の表情を敏感に察知します。失敗したとき、親が顔を引きつらせながら「大丈夫」と励ましても効果はありません。失敗しても人生終わりではないと親が心の底から思っていれば、どんな言葉をかけても子どもの自己肯定感はそんなに低くはならないと思います。発達の過程で「できない自分も大切にされるんだ」という経験を積むことで自己受容が備わっていくと考えられます。また過保護に育てられた場合、特に男の子が極端に失敗を怖がりやすいという傾向があるといわれています。一方で女の子が保護的に育てられると、守られているという信頼感に変わり、精神的に強くなりやすいといわれています。

自分では変えられなくても、
人と触れ合うことで変われる

劣等感を持ってしまう原因は、自分だけが理由ではないのですね。遺伝的な要素もありますか?

畠山先生:劣等コンプレックスは、抱きやすい人と抱きにくい人の個人差があると思います。その個人差の一因としてあげられるのが遺伝。両親の性格がそのまま子どもの気質にも影響してきます。そして育てられ方。親がポジティブな性格で、明るく育てられると子どもも前向きな思考になる。一方でネガティブ気質な親で、育てられ方もそうなると、子どももマイナス思考になりやすい。このように自分自身ではどうしようもできない要因があるので、親以外の友人や学校の先生などの、周囲の人との関わりも重要です。

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子どもたちと交流する心理実習でも、子どもには安定した態度で接することが大切であることを伝えている。

劣等感に関連して、最近「自己肯定感が低い」という言葉もよく耳にします。これについてはどのように考えるべきでしょうか?

畠山先生:自己肯定感が低い方は、自分はダメだという思考パターンに陥りやすい。その意識を変えるためには、なぜ自分がダメだと思ったか、それは客観的に見て正当な評価かを考えてみるといいと思います。あるいは友人から軽く「それはちょっと考えすぎじゃない?」と言ってもらう。そうすることで、自分の認知がほかの人よりもネガティブな傾向にあると、まず理解することが大事です。

なるほど。声をかけてもらうというのは、自分がしてもらうだけでなく、周りの人にも心がけたいですね。

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畠山先生:そうですね。周りの人が日常会話のなかで、マイナスな言葉をプラスに言い換えてあげることも重要です。これは企業の研修にも採用されているやり方です。例えばすごく神経質で、心配性気質な人の場合は、非常に繊細でいろいろなことに気がつくタイプだと言い換えができます。だからといって劇的にネガティブ思考が変わるわけではありませんが、そういった優しい言葉を家族や友人、恋人に投げかけてもらうことで意識をプラスの方にもっていくのが良いと思います。

やはり誰かに協力してもらわないと、なかなか自分は変えられないのでしょうか?

畠山先生:一人で変わることも可能だとは思いますが、労力と時間はかかります。人に受け入れてもらったり、優しくしてもらったりする経験は、大切にされる自分がいることを学ぶ機会になります。乳児はおっぱいが欲しくなると泣きますよね。そこでの授乳は単純に栄養補給だけではなく、自己理解や自尊感情の獲得に大きく関わっています。自分が泣くことによって、周りが何かしてくれる存在であると理解できる。それが自尊感情になり、自己肯定感につながります。逆に虐待された子どもの場合、栄養失調だけではなく、泣いても何もしてもらえない。自分は世の中に何かを発信しても、返してもらえない存在と理解してしまう。何かをすれば、こうしてもらえるんだという積み重ねがとても重要です。

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リアルもSNSも自分らしく、
気楽に交流を

コミュニケーションがうまくいくことが重要なんですね。そのツールとしてSNSは現代に欠かせない存在ですが、他者との関係性を築くうえで、どのような役割を果たしているのでしょう?

畠山先生:SNSは今ではなくてはならないものですよね。対面の世界で自分は認められないけど、インターネットのなかでは認めてもらっているという感覚も悪くはないと思います。ただ、やっぱりリアルの世界との交流も大切だと感じます。学生の様子を見ていると、一緒にごはんを食べているときなんかは、すごく和やかな雰囲気なんです。やはりそういうふれあい方が楽しいし、好きだからだと思うんですが、それはとても健全なことだなと。インターネットだけになってしまうと、ふれあいや空気感を感じにくいので、若くて健全なほどSNSだけだとまいってしまうかもしれません。

対面だからこそできる体験と、SNSでの交流。それぞれを上手に使っていきたいですね。最後に、自分らしさの見つけ方について、アドバイスをいただけますか?

畠山先生:なかなか大学生頃までは、自分らしさが何かわからないかもしれません。その時期にやっと自己概念が完成して、自分の得意や不得意がわかってきます。こんなふうにふるまっていると楽だなという感覚を認識することが、自分らしさを見つけることと近いかもしれませんね。

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人間科学部 心理学科についてはこちら(大学公式サイトへ)

畠山美穂教授の教員詳細ページはこちら(大学公式サイトへ)

※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。

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