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友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

12大学生の友だち事情

友だちのつくり方は、
高校と大学ではどう違うの?

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学校生活の中で避けて通れないのが、「友だち」との関係。一緒にいて楽しいと感じる一方、その関係に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、「友だちとは何か」を深掘り。高校と大学での友だちのつくり方の違いから、SNSとリアルの友だち関係の比較、さらに、コロナ禍での友だち関係の変化などについて、人間科学部心理学科の垂澤由美子先生にお話を伺いました。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?
垂澤由美子准教授(人間科学部 心理学科)
専門分野は社会心理学。様々な集団の成員の「社会的アイデンティティの獲得過程」の他、「ゲーミングシミュレーションの学習効果」についても研究。

高校生女子の
友だち関係は閉鎖的?

最初にお聞きしたいのですが、高校生と大学生では友だちのつくり方に違いはあるのでしょうか?

垂澤先生:大いに違いがあると思います。なぜなら、高校生と大学生とでは、置かれる環境が違うからです。高校ではクラスが固定されていて必然的にクラスの重要度が高くなりますよね。一方、大学では基本的にはクラスがありません。選択した授業やゼミごとにメンバーが入れ替わるし、部活やサークル、アルバイト、趣味の活動など、さまざまな人と知り合いになれるチャンスがあります。自分にとっての重要な集団を大学では自分で決めることができるんですね。そしてこのように環境が違うことによって、友だちとの付き合い方や関係性も変わってくると思います。

高校では、クラスの中で“いつメン”(いつものメンバー)が固定化しがちですが、大学では違うということですか?

垂澤先生:そうなんです。高校生と大学生とでは、友だちとの付き合い方が異なるということが研究報告されています。たとえば、高校生女子の場合、友人グループを1回つくると閉鎖的になりがちだという研究報告があります。グループ以外の人とあまり仲良くしなかったり、他の人をグループに入れないなど関係を閉じることによって、ある意味、「自分たちって仲がいいよね」と確認しているとも言えるかもしれません。一方、大学生になると、友人グループの閉鎖性は薄れて、「友だちとはお互いに高め合いたい」という欲求が出てくると言われています。お互いの個性を尊重し合う、内面を理解し合う、そんな付き合い方に変化していく。

閉鎖性によって友情を確かめ合う関係と、個性を尊重し合う関係というのは、ものすごく違いがありますね。どうして高校生と大学生では付き合い方にそのような変化が生まれるんでしょう。

垂澤先生:心の発達や成長というものが関係しているんだと思います。幼い頃は、自分と同じ考えを持っているとか、好きなものが同じといったように、自分に近いかどうかに着目したかたちで友だちをつくっていると言われているんですね。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

垂澤先生:それが高校生とか大学生といった“青年期”になってくると、自分と友だちが違うことや、それによって嫌われているかどうかについて気にしなくなっていきます。たとえば、「自分は友だちと同じかどうか気になる」とか「友だちと違う意見を言うのが怖い」といった質問に対する回答を、中・高・大で比較すると、大学生は中学生よりも異質な存在として見られることの不安が小さいと示されています。また大学生になると、「嫌だなと思う人とは付き合わないようにしている」といったように“友人の選択化や限定化”が進みます。そうやって、中・高・大とあがるにつれて、友だちとの付き合い方も浅い付き合い方から深い付き合い方に変化していくんですね。そこで重要になってくるのが、「自己開示」です。

「自己開示」というのは、どういうことですか?

垂澤先生:自分のことを誰かにさらけ出すという行為のことを「自己開示」というのですが、自己開示には、最近の楽しかった出来事といった浅いレベルのものから、悩みや過去のつらい経験などの深いレベルのものがあります。たとえば、友だちが深い話をしたとき、自分も深い話で返すことによって、お互いの親密度が深まったと感じることがあると思います。自分の悩みや弱い部分をさらけ出せば誰とでもすぐに仲良くなれるというわけではありませんが、深い対話によって、相手を尊重し、内面を理解し合うという関係はつくられやすくなるのではないでしょうか。

SNSがもたらす
「24時間繋がっている」感覚

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

先生のお話を伺うと、高校で友だちとの関係に悩んでいたとしても、大学ではまた違う関係を築くことができそうだと感じました。ところで、今は学校などだけではなく、SNSを通じた付き合いや友だち関係がありますよね。

垂澤先生:そうですね。SNSは新しい人間関係をつくる上でも、今ある関係を維持するためにも有用で便利なツールです。ただ、SNSをよく使っているのはリアルでも深い友人関係を築いている人たちで、互いに傷つけ合わないように他者とは表面的に関わろうとする人は、SNSをあまり利用していないというデータもあります。

たしかに、リアルでコミュニケーションに気を遣ってしまうタイプだと、SNS上でもそれは変わらないかもしれませんね。

垂澤先生:あと、SNSの発達による友だち関係の変化という意味では、「24時間繋がっている」という感覚を持ちやすくなったという点があります。そして、それによって、「成熟した孤独感」が育ちにくくなっているという研究報告もあるんです。

成熟した孤独感、ですか?

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

垂澤先生:はい。まず、孤独感には「未熟な孤独感」と「成熟した孤独感」というものがあります。「未熟な孤独感」というのは、自分と他人はそれぞれ独立した個人であると認識できず、現実に関わりを持っている人と理解や共感はできないと考えていること。対して「成熟した孤独感」というのは、「自分とあの人はそれぞれ違う人格を持っているけれど、理解したり共感することができる」と考えられるようになることです。高校生から大学生になるにつれて、孤独感はこの「成熟した孤独感」になっていくと考えられているんですね。ですが、ケータイやメールが存在しなかった時期におこなわれた調査と比較すると、高校生も大学生も「未熟」型が増え、「成熟」型が減っている、と。

それはどうしてなんでしょう?

垂澤先生:「24時間繋がっている」という感覚は結局、他者と自分がやりとりすることに集中している状態ともいえますよね。孤独感を「成熟」型に変えるには、ひとりでじっくりと物事を考え、自分と向き合う時間が大切です。SNSによる「24時間繋がっている」という感覚によって、そうしたひとりの時間を持ちづらくなっているということが影響しているのかもしれません。

コロナ禍で深まる
友だちのかたち

SNS上の関係に疲れたときには「SNS断ち」や「デジタルデトックス」をすることも大切、といった話を耳にすることがありますが、孤独感を成熟させるためにも、SNSと距離を置いてひとりの時間を持つことが大事なんですね。でも、コロナ以後は、ますますSNSでのコミュニケーションの比重が大きくなってきている気がします。

※デジタルデトックス

一定期間スマホやパソコンなどのデジタル機器を触らないようにすることで、ストレス軽減をはかる取り組みのこと。

垂澤先生:そうですね。実際、内閣府の調査では「インターネットで知り合った人とメッセージやメールなどのやりとりをしたことがある」と回答した高校生女子は、コロナ禍前までは2割前後で大きな変動がなかったのが、コロナ禍後には3割と、少し増えています。「インターネットで知り合った同性と会ったことがある」と答えた高校生女子も、コロナ禍前までは5%前後の変動でしたが、コロナ禍後には10%になっています。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

垂澤先生:同じ内閣府の調査で、さらにもうひとつ、興味深い結果があります。学校で出会った友だちについて「なんでも悩みを相談できる」「困ったときには助けてくれる」「他の人には言えない本音を話せることがある」といったことを肯定する割合が、コロナ禍前では5、6割だったのに対し、コロナ禍後では8割や9割にまで増えているんです。

コロナ以後はネットを介した友だちづくりが増えたけれど、かといってリアルの友だちとの関係が希薄になったわけではなく、コロナ前より関係は深まっている、というわけですか?

垂澤先生:そうなんです。全体的な傾向として、対面で知り合った友だちの重要性が増してきている、ということなんです。つまり、コロナ禍後、SNSを使って友人関係を広げたいという欲求を持つ層は若干増えたけれど、それが深い関係になるかどうかはまた別の話で、むしろ学校で出会った友だちと深い関係になっている。もしかすると、コロナによって悩みが増えたというようなことも影響しているかもしれませんね。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?
垂澤先生のゼミでは、「友だち」について多様な切り口から卒業論文の主題にする学生も多いそう。

友だちが多くても少なくても、
「幸福」は人それぞれ違うもの

コロナ禍で、学校で出会った友だちとの関係が深まっているというのは、ある意味、深くうなずけるお話です。とくに緊急事態宣言が出ていたときには誰とも気軽に会えないというような状況を体験したことで、それまでは日常だった友だちとのコミュニケーションも当たり前のことじゃないんだと気づかされた人も多かったはずです。最近はオンライン授業から対面授業に切り替わりつつあると思いますが、先生から見て学生さんたちの様子はどうですか?

垂澤先生:ゼミや授業の前などに様子を見ていると、とても楽しそうに話している感じがしますね。なんというか、友だちと過ごす時間をすごく大切にしているような印象があります。こうした対面で会った友だちを大切にしたい、絆を深めたいといった傾向は、今後もまだ続いていくのかなと思っています。

なるほど。では最後に、今友だちとの関係や付き合い方に悩んでいる高校生や大学生に向けて、先生からメッセージはありますか?

垂澤先生:2つあります。1つめは、友人が人生のすべてとは考えないでほしい、ということです。先ほども少し触れましたが、ひとりの居場所を持ち、自分を見つめることは、孤独感を「成熟」型に変えるなど、心の成長においてとても重要です。なので、友だち関係に悩みすぎず、ひとりの時間をいかに有意義に過ごすかを考えてほしいです。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

垂澤先生:2つめとして、自分にとって心地よい友だち関係はどういうものかを考え、それを目指せばいいんだ、ということです。一般的に「友だちはたくさんいないといけない」とか「友だちとはこうあるべきだ」といった考えが存在しているように思いますが、重視する人間関係のあり方は、人によって異なるものです。多くの人と知り合いになり関係を結ぶことを重視したいと思う人もいれば、少ない人間関係でも深く付き合うことを重視する人もいます。そして、それぞれのタイプによって、何を幸福とするかも異なります。ですから、「社会では友だちは大切だと言っているから、私も友だちをつくらなくちゃ」なんて気負ったり自分を追い詰めたりする必要はありません。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?
垂澤先生が担当する基礎ゼミナールⅠで用いられている、学生生活におけるリスク・マネジメントがテーマの「すごろく」。マス目には学生生活上で起きうる様々なリスクが書かれており、止まったマス目のリスクについて、みんなで解決策を話し合う。いろんなアイデアが飛び出すこの「すごろく」が、交流のツールにもなっている。

垂澤先生:大学生にとって友だち作りのきっかけは、些細なところに転がっているかと思います。たとえば、甲南女子大学 心理学科では、1年生の前期に基礎ゼミナールⅠという少人数の授業が用意されていますし、その他の授業でもグループワークが盛んです。そうした中で、気の合った人とおしゃべりをする。そんな何気ないところから深い関係が生まれることがあります。ぜひ、大学という場所を活用してほしいなと思いますね。

友だちのつくり方は、高校と大学ではどう違うの?

人間科学部 心理学科についてはこちら(大学公式サイトへ)

垂澤由美子准教授の教員詳細ページはこちら(大学公式サイトへ)

※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。

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