「あそこの○○めっちゃおいしいで」「うそ! 昨日行ったのにちゃうの食べてもうた」「ほな今度一緒に食べに行こな〜」。甲南女子大生の日常会話はこのように、関西弁率がかなり高め。関西以外の地方から来た学生の言葉も、歳月を経るごとに関西弁ナイズドされていきます。そんな学生たちがもし標準語しか話せない状況に置かれたら、会話はどのように変化するのでしょうか? それを検証するべく、学生同士で「関西弁禁止ゲーム」を行ってもらいました。
「おもしろいって言われるとうれしい」
標準語のように見えるセリフに
いくつものワナが!
編集部スタッフによるルール説明を経て、ゲーム開始。1つ目のお題はこちらです!
「え〜、難しい!」「何やろう、何かある?」などと言い合いながら、5分ほどで答えが出揃いました。ここまでは関西弁OK。ここからは標準語のみで、関西弁が出ればすかさず先生方の関西弁センサーが発動します。
私の答えは「これまで出会った中で一番おもしろい!」です。
あ〜、いい答え!
私は「高級レストランにいそうだね!」。これを言われたら、とってもうれしいです。
笑
私のは普通すぎるかもしれない。「これからも一緒に色んな所に行こうね!」。
あ〜、いいと思う。
それでは、なぜその答えを出したのかの理由を伝えつつ、討論を始めてください。
なんでこの答えにしたかっていうと、私、子供っぽいってよく言われるんです。高級レストランにいそうな女性って、きれいな大人の女性って感じがするので、そんなふうに言われたいなと思ってこれに……し、したよ。
ブランド物をたくさん身に着けていそうな感じのね。うん、素敵ですね!
N.Sさんはなんでその答えにしたの?
やっぱり関西人やったら……じゃなくて、関西人とゆったら、おもしろいと言われるのがうれしいかなと思って、これを選んだよ。
「関西人やったら」を「関西人とゆったら」に言い直しましたけど、どちらも関西弁ですね。正しくは「関西人だったら」もしくは「関西人と言(い)ったら」です。
それから「おもしろい」のアクセントが関西弁の「お↑もしろい」になっていました。標準語は「おも↑しろい」です。
※アクセントについては上昇、下降を矢印で表す方法で記載しています(以降同様)
えーっ、「ゆう(言う)」って関西弁なんだ。おも↑しろい? すごく言いづらい、難しい……。
N.Sさんの言うとおり、関西人的におもしろいっていうのは魅力ですよね。私は、友だちとか身近な人に言われてうれしいことかなと解釈して、これからを見据えた一言を選んだんだ。
一緒に色んな所に行こうねって言われたってことは、前に遊んだ時に楽しかったよっていう意味も含まれてるよね。
そう、なのよ。これをゆわれるって仲がいいってことじゃん! でも、N.Sさんの「おもしろい」はテッパンでうれしい。正直、「かわいい」よりもうれしいかもしれない。
「これを言(い)われる」が「ゆわれる」になっていました。
「〜じゃん」は標準語でいいんでしょうか?
「じゃん」は神奈川の方言で、関東圏の若い世代に浸透していますね。関西弁ではないのでセーフとしましょう。
N.Sさんの答えに心動かされます。けど、高級レストランでトリュフやフォアグラを食べているきれいな女性を想像してみてください。そんな女性みたいだねって言われたらうれしくないですか?
めっ……とてもうれしい。いい女性だねって言われてるわけだからね、心が熱くなる。
今、「めっちゃ」って言いそうになりましたね(笑)。
私の答えは関西人限定かもしれないけど、Y.Aさんのは誰が言われてもうれしいかも。
「誰が言↑われても」は関西弁のイントネーションです。正しくは「だ↑れが言われても」ですね。
私の答えも言われてうれしい人が限定されてしまっている! 親しくない人に「これからも一緒に〜」って言われたら、ちょっと引いてしまうかも。
そこです。「高級レストランにいそう」は、誰が、誰に言われてもうれしい。
そろそろ答えを絞り込めそうですか?
高級レストランがいいかも。
うん、そうだね。
では、発表します。私たちが言われてうれしい一言2023は、「高級レストランにいそうだね!」です。
ありがとうございます! これから私に会ったら「高級レストランにいそうだね!」でお願いします(笑)。
はい、これにてお題1は終了です。
と、告げるやいなや一同「はぁ〜〜〜」と深いため息。関西弁を話す自由を奪われ、かなりのダメージを負っているようです。この回のポイントを振り返ってみましょう。
圧倒的に関西弁センサー発動回数が多かったN.Sさんは、「注意していてもつい口を突いて出てしまう」と困り果てた様子。ほかの2人は回数こそ少ないものの、言葉に詰まったり、不自然な言い方になったりと、危ういシーンが何度か見受けられました。
それでも、「よく頑張っていましたよ〜。何より、みんなの答えがおもしろかった(笑)」という津田先生の言葉に励まされ、次のお題へ臨むことに!
まさに水を得た魚!
関西弁を話せる自由を得て
息を吹き返す学生たち
次のお題へ移ろうとした矢先、酒井先生からある提案が。「みんな緊張がほぐれていないようなので、ここで一度、関西弁禁止を解除してみては?」。それを聞いて、にわかに輝き出す学生たちの顔!
ということで、急きょ「関西弁OKの討論ゲーム」に切り替えてみました。
私が今流行っていると思うのは「シカゴピザ」。アメリカのシカゴスタイルのピザで、器状の生地の中にとろとろチーズがいっぱい入ってるやつ。最近Instagramとかでよく見かけるから流行ってそう。
間違えて「知らんがな」って書いてしまいましたが(笑)、「知らんけど」です。去年の流行語大賞のトップ10に入ってて、ジャニーズWESTの歌のタイトルにもなってるくらいやから、流行ってんねんなと思って。
私は「シアー素材」。ニットの下に着たりする透け感のある洋服の素材です。
それ、若者に人気なん?
梅田を歩いてると、めっちゃいる。シアー素材の上からカーディガン羽織って歩いてる女性8割、ほんまに。量産されてます!
笑
トップスの下に着てる人、私も結構見た。でも、シカゴピザもInstagramで結構見る!
「知らんけど」は若者やInstagramに限らず、子どもから大人まで使う。今まで関西人しか使わなかった言葉やのに、東京とかの標準語を話す人たちも使い始めて今流行ってるっていう言葉。ちょっと遊び感覚で使ってる感じなんかな。
東京の「多分〜だよね」が「〜だよね、知らんけど」になってるんかな。
そうそう、その手放す感じ、私が大好きな言葉なんやけど。服と食べ物と言葉と、それぞれ系統違うけど、どの答えにする?
実際に見たっていう意味ではシアー素材が強いかも。しかも、これから暖かくなってきたら取り入れられる。
そう、ヘップファイブにもルクアにもおるし、なんなら南女にもおる。これはもう大衆の流行りですよ。
今気付いたけど、N.Sさん、若干もう取り入れとうやん!
笑
じゃあ、「シアー素材」で決まりかな(笑)。
うん、決まりやね。
ありがとうございます! まぁ、私は1回も着たことないけど。
ないんかい!
討論のテンポの良さといい、最後のオチの付け方といい、3人ともお題1とは別人のようです。先生方も「いきいきとしていましたね」「表現の幅も広がっていました」と、学生たちの豹変ぶりに驚きを隠せない様子。これで調子を取り戻し、残る1つのお題をノーミスで乗り切れるとよいのですが……。
初回よりも格段に自然な
標準語トークを繰り出すも
イントネーションに悪戦苦闘!
束の間の“言葉の自由”を満喫した学生たちは、「よし、頑張りましょう!」と最後のお題に向けて気合い十分。「ゆう(言う)」「お↑もしろい(おも↑しろい)」といった要注意ワードを意識しながらのゲーム再開です。
「ゆっくりできるおしゃれカフェでヌン活」。今流行っている、アフタヌーンティーをすることをヌン活と言います。
私は「USJで遊ぶ」です。
ユニバ、じゃなくてUSJなんだ。
それを使うと、関西弁のアクセントになりそうで(笑)。
私だけインドアになっちゃったけど、「ユーチューブで好きな動画を見る」。大学生って大学以外でもアルバイトとか遊びで忙しいので、家から出ない休日って私的にはすっごく貴重。推しメンとかの動画を、普段見れない分たくさん見る。それってすごく幸せなことなんじゃないかなって。
「たくさん見る」の「見↑る」が関西弁の「見る↑」でした。このように標準語と関西弁では、アクセントの位置が逆になることが多いんです。
確かに有意義かもしれないけど、通学の電車の中でも見れるかも。
でも、ギガが……スマホのプランによってはギガ不足で低速になっちゃうから。そういう人は電車の中でYouTubeなんて見れない。
私はY.Cさんと正反対の意見になってしまうんだけど、普段、大学やバイトで忙しいからこそ、休日は疲れやストレスを発散しにUSJに行く。友だちと一緒に絶叫アトラクションでブワーッと叫ぶ。ストレス発散です!
ルール上はセーフなのですが、「ブワーッと叫ぶ」が関西人ぽいなぁと(笑)。「ガーッとやる」「シュッとしてる」など、いわゆるオノマトペ(擬音語)が多いのが関西の特徴です。
私、実はUSJに行ったことがなくて、いまいち良さがわかっていないのかも。めっ……とっても長い時間、並ばされるイメージがあって。もしその間に友だちと話すことがなくなって、みんなでスマホをいじり始めることになったら、それって有意義なのかなって私は思うな。
てことは、ヌン活が一番いいんじゃないかな? おしゃれなカフェで、しかもゆっくりとアフタヌーンティーを満喫する。これは有意義でしょう。
実は昨日ヌン活したんだけど、一つ難点をゆうなら値段が高い。
「ゆうなら」ではなく「言(い)うなら」ですね。
値段ならUSJも高いね。
私のは、無料です!
でも、動画視聴ってしようと思えばいつでもできるでしょ。大学から帰ってからでも。平日にできることを休日にやって有意義と言っていいものなのか。
「いいも↑のなのか」になっていましたが、正しくは「いいもの↑なのか」ですよ。
平日は疲れちゃってるから、休日に新鮮な心で見たい。
ヌン活なら休日にゆっくり座って話ができるよ。
そもそもヌン活ってそんなに長時間いれるものなの?
ギクッ(笑)! この間行ったところは2時間制だった。
いいな〜。私が行ったカフェは90分制だったよ。
うーん、ゆっくりヌン活してから家でYouTube見たらダメ?
笑
いやでも、USJは絶対一人は友だちが必要だし、化粧もしないといけない。ヌン活もすっぴんでは行きにくい。
あ〜、化粧しなくていいのはデカい。
「デカい」って、言葉の使い方を間違っているような。
程度の大きさを表す「デカい」でしょうね。若者言葉の一種で、関西弁とは言い切れないのでセーフでいいでしょう。
ただ、USJでしかできない化粧の仕方があるでしょ? コスプレメイクしたりとか。化粧の点ではUSJも負けてないと思う。ヌン活も楽しそうではあるけど。
おしゃれな大学生を満喫できるよ。おいしいものや甘いもので一週間の疲れをパッてなくしちゃって、また月曜から頑張れる。
このまま討論を聞いていたいところですが、そろそろ答えを一本化していきましょうか。
太陽の光を浴びてキラキラ大学生って感じがいいのであれば、ヌン活やUSJだと思うけど、単純に疲れを癒すなら家でYouTube。うーん、難しいな。
「難しいな」のところ、「む↑ずかしいな」ではなく、「むず↑かしいな」です。
私たちが目指す大学生の形じゃない?
そうゆわれると、ヌン活している女性のイメージって気品あふれるいいオンナ感があっていいと思う。
南女としては、外に出て活動してるほうが良さそう。
N.Sさんの「そうゆわれると」は「言(い)われると」ですね。
ちなみにY.Aさんの「南女」のイントネーション、関西弁ではないですが、「な↑ん↓じょ↑」と訛っています。関西弁を気にしすぎて、混乱してますね(笑)。普段どおり「な↑んじょ」でいいんです。
USJは高校生だとお値段的に厳しいし、社会人になってしまうと時間がない。土日は人が多いし。
社会人こそ週末にYouTubeを見たいかも。
となると……ヌン活ということになるね。
そうしよう。私たちの有意義な休日の過ごし方は、ゆっくりできるおしゃれなカフェでヌン活です。
やったー! ありがとうございます!
みなさん、お疲れさまでした! これにてゲームはすべて終了です。
初回に比べると、不自然な言葉遣いもほとんどなく、テンポよく討論が進みましたが、どうしても出てしまうようです、関西弁。この回は特にイントネーションでのセンサー発動が目立ちました。
お題1とお題2で関西弁が出た回数を一人ずつまとめると、
N.Sさん 計5回
Y.Aさん 計1回
Y.Cさん 計4回
という結果に。1人につき10回程度と多めに見積もっていた編集部の予想に反して、みなさん大健闘でした。
「関西弁禁止」の試みを経て
学生と先生方、それぞれが感じたこと
では、判定員の先生方はゲームの内容をどのように見ていたのでしょう。学術的な視点からコメントをいただきました。
関西弁OKの回で、関西弁の標準語化が進んでいるなと改めて感じました。伝統的な関西弁を話す人から見ると、我々の世代でもかなり標準語化しているんですが、さらに進んでいる印象を受けました。「あかん」の「ん」のような否定辞や「ゆう(言う)」などのいくつかのポイントとアクセントに気を付けていれば、ある程度標準語と言えるレベルに達すると思います。
「おもしろい」や「見る」のように、標準語と思って使っている言葉のアクセントが実は関西弁だったということは通常にあるんですね。私もアナウンサーになりたての頃、一般的な単語のアクセントの違いで苦労したのを思い出しました。 学術的ではありませんが、みんなの答えが個性的でおもしろかったです。今の若い人たちもおもしろいって人から言われるのがいいんだとわかって、関西人の先輩としては非常にうれしかったです(笑)。
最後に、「関西弁禁止ゲーム」を終えて間もない学生たちに話を聞いてみました。
関西弁センサーが発動されるたび「難しい」という声が漏れていましたが、標準語で話すのは大変でしたか?
お題の答えを考える脳と、関西弁をしゃべってはいけない脳と、ディベートをする脳と、3つを同時に働かせなあかんくて頭の中がパニック状態でした。
一言ずつ間違えてないか考えながらしゃべってたんで、めちゃくちゃ疲れました。「ゆっくりできる」とかも「ゆっくり」で一瞬止まって、「で↑きる」と「でき↑る」、どっちやったかなって。
その結果、「選んだんだ」みたいに変なしゃべり方になったりね。語尾がめっちゃ難しかったです。今の「めっちゃ」も何回も出そうになってヤバかったです。
標準語のつもりで使ったら間違えていたパターンもありましたね。
「ゆう(言う)」はずっと標準語やと思ってて、指摘されたあともついゆってしまう……こんな感じで(苦笑)。
「難しい」「おもしろい」「見る」のイントネーションの違いも指摘されるまで知りませんでした。
関西弁の「お↑もしろい」は言われてうれしい言葉でもあるので、標準語で「おも↑しろい」と言うことにちょっと罪悪感を覚えました(笑)。
今回のゲームを経験して思うことは?
いやー、関西弁を自由に話せるありがたみを痛感しましたね(笑)。
標準語を話したら不自然になるのはわかってたんですけど、想像以上でした。自分が自分でないような、変な感じになっちゃって。
酒井先生がおっしゃったように標準語化してる部分は確かにある気がします。でも、イントネーションまで直すのはなかなか難しいと思うし、正直、直す気もあんまりないです(笑)。
今回のゲームで見えてきたのは、言葉の使い分けの難しさ。普段使っている関西弁の語彙やイントネーションを標準語に変換することはできても、それを瞬時に且つなめらかに発し続けるのは容易ではないようです。
一方で、「関西弁の標準語化」が進んでいることも明らかに。人と情報の行き来がシームレスになった証と言えるのでしょうが、その陰で古きよき関西弁が消えてゆくのは寂しい気もしますね。流行語の「知らんけど」のような逆転現象が起きることに期待しましょう!
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※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。
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13関西弁っておもろいやん