総合子ども学科の学生たちは、保育士や幼稚園教諭、小学校教諭などを目指して日々勉強中。実習で子どもたちを前に絵本の読み聞かせをするなど、実践も重ねています。今回はそんな日々の成果を発表するべく、3人の学生が絵本の読み聞かせ対決をしました。さて、子どもたちは楽しんでくれたでしょうか?
読み聞かせをはじめる前に……
今日はよろしくお願いします。みなさんは普段から読み聞かせの練習をしているとのことですが、順番に今回の意気込みをどうぞ!
S.Tさん:私は幼稚園の頃から図書館によく通っていて、そこで借りた絵本を家で読み聞かせてもらっていました。今でも図書館には定期的に通っています。ボランティアで小学生の子たちに絵本の読み聞かせをしたこともあるので、今回はその経験を生かしながら、子どもたちがたくさん楽しめるように頑張りたいです。
A.Kさん:父が本好きで子どもの頃から絵本をたくさん読んでもらっていました。今でも印象に残っている絵本も多くて。今日、参加してくれた子どもたちにとっても、印象に残ってもらえるような絵本になるように読み聞かせができればと思います。
N.Kさん:実はこのあいだ保育園に教育実習へ行ったばかりなんです。そこで学んだことが発揮できるよう、また子どもたちが絵本を好きになってもらえるように読み聞かせすることができればと思います。
気合い十分ですね。楽しみです!
読み聞かせに使う絵本は、3人で「心があたたまる絵本」「参加型の面白い絵本」「最近の絵本」という3つのテーマを決めて、それぞれが推薦する絵本を持ち寄ったそう。
今回の読み聞かせ対決では、3〜5歳の子ども3人に判定をしてもらいます。
それではさっそく読み聞かせスタート!……といきたいところですが、子どもたちとは今日が初対面。学生たちで相談して、自己紹介のあとは緊張をほぐすため、一緒に手遊びから始めました。
A.Kさん:最初に手遊びをしようと思います。「や お や (八百屋)さん」って知ってるかな? 今からお姉さんたちが「(童謡『静かな湖畔』のメロディに合わせて)や〜おやの お店に並んだ し〜なもの 見てごらん♪」って歌ったあとに、いろんな物の名前を言っていきます。それが八百屋さんにあるものだったら、手を叩いて「ある、ある」って言ってね。もし八百屋さんにないものだったら、手でバッテンをして「ない、ない」って教えてほしいの。いい?
子どもたち:うん!
いよいよ、読み聞かせスタート!
1人目:S.Tさん
『りんごがひとつ』(作・絵:ふくだすぐる/出版社:岩崎書店)
S.Tさん:私が読むのは『りんごがひとつ』という絵本で、「心があたたまる絵本」というテーマで選びました。イラストのほっこりした色味と雰囲気が好きで、直感でこれがいいなと。また、りんごという子どもにもわかりやすい題材がこんなにもあたたかい内容になるというのが驚きで、自分自身の心にも響くものだったので、みんなの前で読んでみたいと思いました。
あまり声を出しすぎずに、ゆっくりと子どもたちに内容を伝えられるように読みたいと思っています。ボランティアで小学校低学年の子どもたちに読み聞かせをすることはあるのですが、自分で文字を読める小学生とは違って今日は3歳〜5歳の子どもたちなので、どんなふうに伝わるのか楽しみです。
S.Tさん:じゃあ、お姉さんから読むね。これは『りんごがひとつ』という絵本です。
「りんごがひとつあります。みんなおなかをすかせているよ」
この絵本は1つのりんごをおさるが独り占めしてしまい、他の動物たちが怒ってしまうというストーリー。でも実はおさるにはりんごが必要な事情があって……。
ハラハラするシーン、ほっこりするシーン。S.Tさんがそれぞれのシーンに合わせて声のトーンやスピードを変えて読んでいくことで、臨場感がぐっと増します。子どもたちもすっかり引き込まれて夢中な様子。
読み聞かせが終了。さて、結果は……?
2人目:A.Kさん
『ねえ、どれがいい?』(作:ジョン・バーニンガム/訳:まつかわまゆみ/出版社:評論社)
A.Kさん:私が読む『ねえ、どれがいい?』は、「参加型の面白い絵本」というテーマで選んだ1冊。少し長めでちょっと笑えるお話です。子どもとコミュニケーションが取れる内容なので、初めて会う子たちと仲良くなるきっかけになればと思って選びました。
1ページごとに「どれがいい?」と聞いていく内容なので、読むときは子どもたちの反応が返ってくるような問いかけ方を工夫したいと思っています。
A.Kさん:じゃあ次は『ねえ、どれがいい?』という絵本を読むね。
「もしもだよ きみんちのまわりが変わるとしたら 大水と 大雪と ジャングル どれがいい?」
この絵本は、ちょっと奇妙な選択肢から子どもたちに自分ならどれがいいかを選んでもらう参加型の絵本。
A.Kさんが抑揚をつけて読みながら「どれがいい?」と尋ねると、子どもたちが前に進み出て指で選んでいきます。ときには、「全部嫌だ」という笑い声も。そんなときはアドリブを交えながら、子どもたちとコミュニケーションをとっていきます。
読み聞かせが終わり、子どもたちの判定は……⁉︎
3人目:N.Kさん
『ちいさなちいさなうみのおさんぽ』(作・絵:さかいさちえ/出版社:教育画劇)
N.Kさん:「最近の絵本」をテーマに、この『ちいさなちいさなうみのおさんぽ』を選びました。実習先でどの絵本を読もうかと本屋さんに行ったときに、鮮やかで可愛らしい絵がパッと目に入って思わず手に取ってしまって。実習で子どもたちが騒いでいるときにこの絵本を読んでみたら、みんなが寄ってきて落ち着いてくれたこともありました。
冒険ものでワクワクするストーリーなのと、子どもたちが見たくなる細かく書き込まれた絵が多いので、集中できる雰囲気を作って楽しんでもらえるようにしたいです。あと、3人目ということもあって子どもたちの集中力が切れてくる頃だと思うので、最初に少し雑談を挟もうと思います。
N.Kさん:最後は『ちいさなちいさなうみのおさんぽ』という絵本です。これは海のお話なんだけど、みんなは夏休み海に行った?
子どもたち:行った! いっぱい遊んだ!
N.Kさん:そうなんだ! 暑い日に海に入ると気持ちがいいよね。それじゃあ、楽しい海の絵本を読むね。可愛い絵がいっぱいあるからよく見てね。
「トコトコトコ。ポコポコとありさんはうみのおさんぽにやってきました」
主人公のポコポコが浜辺を散歩しながら落ちていたものを拾ったり、水辺にいる生き物たちを見つけたりする冒険ストーリー。そのときに拾った金色の輪っかの正体は……?
子どもたちはストーリーの行く末と可愛らしい絵に興味津々。読み終わったあと、お気に入りのページをめくりながら、じっくりと絵を観察する姿も。
最後の読み聞かせも終了。シールは何枚集まったでしょうか?
無事に全員の読み聞かせが終了! 対決の結果は全員が3点満点で引き分けでした。
学生たちはしっかりと子どもたちの心をつかんで、どの絵本も気に入ってもらえたようです。
読み聞かせ対決は引き分け!
それぞれの感想は?
お疲れさまでした! 子どもたちも楽しんでいましたね。今日の読み聞かせを自己採点するとどうですか?
S.Tさん:今日は子どもが3人だけだったので、座る位置を低くして距離感をもう少し詰めたほうが絵本の内容も見やすかったかなと感じました。最後のシーンが子どもたちからは少し見えづらかったようで、練習しているときは自分だけだったのでそこに気づけなかったのが悔しいです。
あと、小さな子は「どうやった?」と感想をたずねるだけでは答えにくいので、「さっきのこのシーンはどうだった?」とか「ここがおもしろかったよね」というように、自分から声をかけていたらさらに盛り上がれたのかなと思いました。点数はうーん、65点で。
A.Kさん:私が読んだ絵本は参加型だったので、人数が多いときに今日みたいな読み方をすると収拾がつかなくなってページをめくりにくくなったり、読み終わるまで時間がかかってしまったりします。でも今日は少人数だったので、1人ひとりに話しかけてコミュニケーションをとりながら、子どもたちの話していることを邪魔せず、自由に話してもらえたらいいなと思いながら読みました。
もう少し時間をかけて「どれが良かった?」と聞いてあげれば良かったかな、という反省点もあるし、まだ小さいお子さんだったので、もしかしたら少し難しかったかな、とも思うのですが、反応が良かったので70点で!(笑)。
N.Kさん:今日は読む順番が最後だったのと、少人数だったので落ち着いて話しかけるように読むことを心がけました。みんな真剣に聞いてくれていたので良かったのですが、もっと大人数だったら小さな絵が見にくかったんじゃないかなと感じました。
あと、途中で「流木」という言葉が出てきたんですけど、「この言葉、絶対にわからへんやろうな」って途中で気づいて(笑)、あのときに「流木ってわかる? 流れてきた木のことやで」って言ってあげたら良かったなと思いました。なので60点かな。
みなさん、なかなか辛口ですね(笑)。内藤先生、3人の読み聞かせはいかがでしたか?
内藤先生:私はみんなもっといい点数だと思いますよ。たとえば、指さしをしながら読んでいたり、特に長いお話のときは子どもの視点がずれないように絵本を固定して読んでいたり、子どもに寄り添った工夫や配慮がしっかりできていたので、私からはみんな90点!
おお、高得点!
内藤先生:普通読み聞かせをするときには子どもとの基本的な関係ができてから読むことが多いのですが、今日は「はじめまして」の状態からにもかかわらず、子どもとの関係をうまく作りながら名前を覚えたり話しかけたり、とてもよくできていたなと思います。
たしかに、子どもたちの名前を一度で覚えて呼びかけていましたね!
内藤先生:実習では20人、ときにはもっと多くの子どもたちの名前を覚えないといけませんからね。
みなさんから見て、他の人の読み聞かせはどうでしたか?
S.Tさん:A.Kさんはページをめくるたびに子どもの反応を聞いてみたり、「どれも嫌じゃない?」などの声掛けがスムーズで、お話が進んでいるのに子どもの意見も聞けていてすごいなと思いました。指を差しながら話しているところは、次から私も真似したいです。
N.Kさんの絵本は少しサイズが小さめだったんですけど、読み始めるときに椅子を少し動かして子どもたちに近づくなど慣れているなあと思いました。登場キャラクターに合わせて声色を変えて、お話の中で誰がしゃべっているのかも分かりやすくていいなと思いました。
A.Kさん:S.Tさんは実習も未経験で、小さな子の前では読むのが初めてだったのに、全く緊張しているように見えなかったです(笑)。トップバッターを任せてしまって申し訳なかったけど、子どもたちへの対応も堂々としていて、すごいなと思いました。
N.Kさんは友だちとしての顔しか知らなかったのですが、子どもの目を見てしっかり読み聞かせをしている姿は私が知っている彼女とは違っていました(笑)。卒業後保育士として活躍している姿が目に浮かぶようでした。
N.Kさん:S.Tさんは読み聞かせのときに文章を暗記していて、子どもたちの目を見て語りかけるように話しているのがすごいなと思いました。3年生で実習もまだなのに全然緊張が感じられなくて落ち着いていて、経験者じゃないの⁉︎ って思いました(笑)。
A.Kさんは子どもたちと心の距離を詰めるのがすごく上手だなと思いました。すぐに打ち解けて仲良くなっていて、子どもたちも楽しんでいるのが伝わりました。
お互いのことをよく見ていたんですね!
絵本は社会でも役立つ普遍的な存在。
学生のうちにたくさんの出会いを
みなさんはなぜ総合子ども学科に入ろうと思ったんですか?
S.Tさん:母が保育士で、いつも子どもたちとの楽しいやりとりを聞いていました。私自身も人と関わることが好きなので、人と関われる仕事をしたいと思っていたのですが、甲南女子大学の総合子ども学科なら幼稚園の教諭免許も小学校の教員免許も取得できると知って、進学を決めました。
A.Kさん:もともと子どもやピアノが好きだったこともあって、将来はそれらを生かせる仕事に就きたいと思っていました。中学生のときに職業体験で子どもたちの可愛らしさに触れて、保育士の免許が取れたらいいなと思ったのが理由です。
N.Kさん:保育士になるのが幼い頃からの夢でした。高校のときにいろんな大学のオープンキャンパスに参加した中で、内藤先生の体験授業が自分の興味にピッタリ合う内容でおもしろくて衝撃的でした。ぜひこの大学で内藤先生のもとで学びたいと思ったんです。
内藤先生の体験授業はどんな内容だったのでしょう?
N.Kさん:海外の保育に関する内容です。自分が興味を持っていることを学べるんだ、ということがとても嬉しかったです。
内藤先生:たとえばドイツは世界で初めて幼稚園ができた国で、現在も様々な特徴のある取り組みがなされています。グリム童話の故郷でもあるので、児童文化について学ぶことがたくさんありますね。授業ではドイツだけでなく、さまざまな国の教育や保育についても研究しているんですよ。
そうなんですね! 内藤先生のゼミでは絵本を取り入れた授業もされているとうかがいました。
内藤先生:子どもとの関係、子どもの発達を考える中で絵本が非常に重要な役割を果たすことから、私たちの授業では絵本を積極的に活用するようになりました。
絵本は、卒業後社会に出てからも役に立つ機会がありますので、できるだけ学生のうちにたくさんの絵本に出会って、自分の感性を磨いたり、絵本を通じて子どもにどんなことを伝えたいのかなど、今のうちにしっかりと考えてほしいという思いがあります。
具体的にはどんなことをされているのでしょうか?
内藤先生:今年の4年生は日めくりの「絵本カレンダー」を作りました。これは「ゼミプロジェクト」という取り組みのなかで学生たちのアイデアから生まれたものです。私のゼミには海外の保育や絵本に関心のある学生が多く集まるのですが、それらをテーマにして自分たちがゼミでやりたいこと、実現したいこと、どのように成長していきたいかを、話し合いながら企画書にまとめていきます。その企画のなかから実際に作られたのがこの絵本カレンダーです。
内藤先生:カレンダーに掲載されているのは31冊分ですが、その何倍もの絵本を自分たちで読んで選んでいるので、絵本を読み解く力は相当身についたと思います。絵本を大人になって読み直してみると、小さい頃に感じたこととは違うメッセージに気づけたりしますし、子どもの頃に読んでもらった当時の記憶や家族に愛されていた経験が蘇ってきたりします。大人になってから絵本に触れることは、自分自身を振り返ることで得られる気づきや学びが大きい活動だと思います。
みなさん、今日はありがとうございました!
人間科学部 総合子ども学科についてはこちら(大学公式サイトへ)
内藤由佳子教授の教員詳細ページはこちら(大学公式サイトへ)
※記事に記されている所属・役職等は取材時のものです。既に転出・退職している教員、卒業している学生が掲載されている場合があります。
Another voice
15いくつになっても絵本が大好き