災害時に役立つ「パッククッキング」を知っていますか?
パッククッキングは、耐熱性のポリ袋に食材を入れて湯煎するだけで料理が作れる調理法。ポリ袋を使用するため洗いものが少なく、簡単に温かい料理が作れるなどのメリットがあり、普段の料理の時短などにも活用できますが、災害時に役立つ調理法として注目されています。
阪神・淡路大震災から今年2025年で30年。災害時の食事についてあらためて考えてみようということで、パッククッキングを研究されている先生監修のもと、医療栄養学部の学生3名が災害時に役立つパッククッキングに挑戦。缶詰など、普段から備蓄可能な材料で主食、おかず、デザートの3品を作りました。
一人暮らしや普段料理をしない方でも簡単に調理ができ、いざという時にも役に立つ、パッククッキング。ぜひ学生たちとともにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
主食、おかず、デザート
簡単・時短でバランスの摂れた食事を
〈監修いただく先生〉
〈パッククッキングに挑戦する学生〉
今回作るメニューは、災害時における栄養バランス、食事の楽しみなどを考慮し、主食、おかず、デザートを考えていただきました。
使う食材はいずれも、備蓄できる食べもの(備蓄食)。お家の備蓄品の参考にもしてみてください。
◆ パッククッキングに必要な道具
・水(湯せん用)
・高密度ポリエチレン袋(湯煎対応可・無地・マチがないもの)
・大きめの鍋
・カセットコンロ
・カセットボンベ
・鍋に入る大きさの皿
◆ パッククッキング 基本の4ステップ
① 食材をポリ袋に入れ、袋の上部でしっかり結ぶ。
② 熱を通りやすくするために食材を均一に広げる。
③ 袋が鍋底に直接触れると裂けるため、鍋底にお皿を敷いてから湯煎する。
④トングで袋を取り出し、ハサミで切り食器にのせる(袋から直接食べることも可能)。
【1品目:焼き鳥ひじきご飯】
〈材料(1人分)〉
・無洗米 60g
・水 76ml
・焼き鳥缶(たれ味) 1/2缶
・ひじき(ドライパック) 2g
・3倍濃縮めんつゆ 2g
・おろししょうが(チューブ) 約4cm
〈作り方〉
①ポリ袋に、すべての食材を入れる(味つけの役割もあるため、焼き鳥缶は汁ごと入れる)。
空気を抜きながら袋をねじり上げ、上部でかたく結ぶ。
② 米に水を浸透させるため、①を20分間置く。
③ 鍋底に皿を敷いて鍋の1/3程度の水を入れ、②を鍋に入れる。
④ 鍋に蓋をして沸騰したら中~弱火にし、20分間加熱する(蓋なしでも可)。
⑤ 火を止めて蓋をしたまま10分間蒸らす。
⑥ 袋の結び目の下をハサミで切り開いて完成。
【2品目:鮭のクリーム煮】
〈材料(1人分)〉
・鮭缶(水煮) 30g
・ブロッコリー 40g
・にんじん 20g
・シチュールウ 20g
・水 90ml
・白コショウ 0.02g
・無塩バター 3g
〈作り方〉
① 鮭缶は汁を除く。にんじんは皮をむいて1cmのいちょう切りに、ブロッコリーは房の部分のみ、ひと口大に切る。
② ①とその他すべての材料を袋に入れる。
③ ポリ袋中の空気を抜きながら袋をねじり上げ、上部でかたく結ぶ。
④ 鍋底に皿を敷いて鍋の1/3程度の水を入れ、③を鍋に入れる。
⑤ 鍋に蓋をして沸騰したら、中~弱火にし、20分間加熱する。
⑥ 袋の結び目の下をハサミで切り開いて、スプーンで混ぜて完成。
【3品目:あんこ入り蒸しパン】
〈材料(1人分)〉
・ホットケーキミックス 50g
・水 25ml
・こしあん 30g
〈作り方〉
① ポリ袋にホットケーキミックスと水を入れ、袋をもんでよく混ぜ、円形に広げておく。
② ①で出来た生地の中央にこしあんをのせる。
③ 袋の中の生地でこしあんを包みながら袋をねじり上げ、上部でかたく結ぶ(袋の中の空気は少し残しておく)。
④ 鍋底に皿を敷いて、鍋の1/3程度の水を入れ、③を鍋に入れる。
⑤ 鍋に蓋をして沸騰したら中~弱火にし、20分間加熱する。
⑥ 袋の結び目の下をハサミで切り開いて完成。
完成した3品でパッククッキングパーティ
全3品が完成したところでみんなで実食!調理時間は3品あわせて1時間ほどでしたが、気になるそのお味は……?
全3品が完成しましたが、お味はいかがでしょうか?
A・Yさん:おいしいです!ご飯は焼き鳥缶が入っているので、ほかにおかずがなくてもこのままでおいしく食べられるのも良いですよね。
K・Mさん:シチューは、にんじんとブロッコリーの芯の部分を薄く切ったことでしっかり火が入っていますね。蒸しパンも、あんこの甘さにほっとします。
パッククッキングに挑戦してみていかがでしたか?
M・Fさん:先生の授業でパッククッキングの存在を知り、調理してみましたが、思っていたより簡単に短時間で出来ました。 洗い物もほとんど出なかったので後片付けもラクでした。
A・Yさん:ポリ袋だけでご飯がふっくら炊けたことに驚きでした。 良い意味で、普段食べている料理と変わらない味。
M・Fさん:少しコツが必要だったのが、蒸しあんぱん。生地が袋全体に広がってしまわないよう、袋の底に押し出しながら、まとめました。あと、もしお家にベーキングパウダーがあれば、入れると良いと思います。
災害時に役立つパッククッキングというテーマでしたが、栄養学の観点から気づきがあれば教えてください。
A・Yさん:避難所での食事は、栄養素が偏りがちになってしまうと聞きます。焼き鳥ひじきご飯は、エネルギー源となる炭水化物はもちろん、タンバクや脂質も一緒に摂取できる料理。ひじきのおかげで食物繊維やミネラルも補給できるので、かなり万能な一品だと感じました。
今回は焼き鳥缶を使いましたが、サバや牡蠣など、ほかの缶詰でも応用がきくと思います。いろんな缶詰を備蓄しておくと調理の幅が広がりそうです。
M・Fさん:災害時には大きなストレスがかかるためビタミンの消耗が大きく、口内炎になってしまう方も多いと聞きました。今回作ったシチューのように人参などの根菜類が入っているメニューだと、不足しがちなビタミン類を摂取できるのがうれしいポイント。あとこれも、鮭や乳製品が入っているので、タンバク質がよく摂れるメニューだと思います。
K・Mさん:シチューのアレンジとしては、シチュールウの代わりに、カレールウを使えばカレーにもできそうですね。
A・Yさん:蒸しあんぱんは、避難所で気持ち的に沈みがちになるなか、甘いものがあるとほっとするというか、気持ちを落ち着かせることができるかなと思います。
K・Mさん:今日はあんこでしたが、チョコを入れたりクッキーを入れたり、家に普段あるお菓子で試しても良いと思います。フルーツの缶詰なんかもおいしそう!
M・Fさん:缶詰とかレトルト食品みたいな備蓄品って、味としてはおいしいけれど、それが続くと「いつもと違うものを食べている」ことにストレスがかかるそうです。普段食べている家庭の味に近いものを食べられることで、心もほっとするんだろうなって思います。
基本の作り方を覚えておくと、その時の状況にあった応用やいろんなアレンジもできそうですね。
A・Yさん:そうですね。いざという時あわてないためにも、一度実践しておくと良いなと思いました。家にあるもので簡単にできるし、洗いものも少なくすむので、1人暮らしの人にもおすすめしたいです。
K・Mさん:授業では、ガスで煮る時間を半分にして、そのあとお鍋ごと毛布で包んで予熱で温めることでガスの使用量を抑える方法も教えてもらいました。ガスボンベの使用量を節約したい場面があると思うので、そういう知識も知っているとより良いですよね。
パッククッキングから見つめ直す
災害時の食環境
最後に、災害時におけるパッククッキングの活用について、郡先生にお話を伺いました。
今回、パッククッキングを実践してみて、たくさんのメリットを感じました。 あらためて、災害時における食事という点で、先生がパッククッキングに注目されているポイントを教えてください。
郡先生:少ない水であたたかい料理が作れるというのはもちろんのこと、私が大きなメリットとして感じているのが、「個別対応」ができる調理法であるということです。
避難所では、おにぎりやパン、お弁当や炊き出しなどの食事の提供はあるのですが、たとえば腎臓が悪い方はカリウムの摂りすぎがいけなかったり、アレルギーがある方は食べられないものがあったりと、食事制限のある方が困っていらっしゃるというのが、災害時における食の課題のひとつとしてあります。そうした時にパッククッキングは、ひとつの鍋で個別調理ができるので、食事に制限がある方にも対応がしやすい調理法なんです。
ポリ袋で1食ずつ作れるパッククッキングならではの強みですね。
郡先生:そうですね。あとは学生たちも話してくれていましたが、ビタミンや食物繊維など、災害時に不足しがちな栄養素をパッククッキングでなら摂取することができますし、水が足りず、満足に手を洗うことができない状況でも、袋のまま食べられるので衛生的。
野菜などに含まれる栄養素や素材の旨みを外に逃がすことなく調理できるというのも、喜ばれる点ですね。
パッククッキングをおこなう際に気をつけた方が良いポイントはありますか?
郡先生:水の量でしょうか。普通に鍋で煮込むときと違い、袋に入れて調理すると水が蒸発していかないので、今回紹介したレシピは普通のレシピと比べて水の量が半分ぐらいになっています。逆にいうと、水の量に注意すれば、ほかにもいろんなレシピが広がると思いますよ。
備蓄品としてよくあげられているものだけでできるのも良いですね。備蓄品の大切さをあらためて感じました。
郡先生:そうですね。缶詰のような備蓄品がパッククッキングによって栄養バランスの摂れたごはんに変わるというのはうれしい点だと思います。
それに、水やカセットコンロは、パッククッキングにかぎらずともライフラインがストップすることを考えて、常備しておいてほしいですね。耐熱性のビニール袋も、ラップの代わりにしたり、手袋の代わりにしたりと、普段からいろいろ役に立ちますよ。今回使用した「アイラップ」はスーパーなどでも手軽に手に入るのでおすすめです。
郡先生:また、今回は使用していませんでしたが、電気ポットもあると便利です。電気とガスが両方ストップした場合、電気のほうが比較的復旧が早いので。調理だけでなく、保温もしやすくなりますね。温かい料理は災害時に緊張や不安を和らげてくれるので、とても大切なものなんです。
ほかに備蓄品として用意しておくと良いものはありますか?
郡先生:無洗米、缶詰、インスタント食品などの長期保存ができる食品たちは必需品ですね。ただ、備蓄品として別途とっておくと、いざ必要になった時に期限が切れているという問題があります。
そこで、近年推奨されているのが「ローリングストック法」です。
ローリングストック法?
郡先生:普段食べているものを多めに買い置きしておいて、食べた分をまた新しく購入していくというストックの仕方を言います。常に一定量の食品が家庭で備蓄されつつ、自然と食品が回っていくので、期限切れを防ぐことができます。 最低、家族の人数×3日分の非常食を用意しておくと良いでしょう。
実際、災害の現場でパッククッキングは実践されているのでしょうか。
郡先生:パッククッキングは正直、まだ認知度は高くありません。けれど、これだけのメリットがあるので、知っておいてほしい調理法として、全国の行政機関などがYoutubeでのレシピ紹介をしたり、認知度向上の取り組みをおこなっているところです。
私のゼミ生たちもこの間、西宮でおこなわれた防災体験型のイベントで、パッククッキングの取り組みの発信を紹介してくれました。
そうした活動を通じて、パッククッキングの方法とそのメリットを発信していけたらと思っています。
栄養学を学ぶ学生たちに、このような知識を伝える意義はなんでしょうか?
郡先生:甲南女子大学では医療に強い管理栄養士を育成するということもあり、病院を就職先とする卒業生が多いです。
医療の現場では、先ほども伝えたような、食事の個別対応が必要な場面が頻繁に発生します。実際、病院に就職した卒業生が、病院内の研修会でパッククッキングを紹介したところ、非常に好評であったという話もあり、病院勤務の栄養士は、パッククッキングのメリットを感じることが多いだろうという点から、学生たちにも指導をおこなっています。
ただ、病院に限らずとも、たとえ栄養士とは別の道に進むことになったとしても、災害に直面した時、このような知識が非常に役に立つものだと考えています。
学生たちとともに発信を続けながら、平時だけではない、あらゆる場面を想定した食のあり方を考えていきたいですね。
医療栄養学部医療栄養学科についてはこちら(大学公式サイトへ)
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